#不思議系小説 第85回「粘膜飛行3.」
君は君を閉じ込める奴の気が知れないまま、遥かな世界へ消えてった。それでいい、これでよかったんだ、僕は街の灯を見つめて何度も何度も心に刻み込んだ。これでよかったんだ、と刻まれた瘡蓋が乾いて落ちるころには、すっかり忘れてし…
ハイパーグラウンドに ようこそ
君は君を閉じ込める奴の気が知れないまま、遥かな世界へ消えてった。それでいい、これでよかったんだ、僕は街の灯を見つめて何度も何度も心に刻み込んだ。これでよかったんだ、と刻まれた瘡蓋が乾いて落ちるころには、すっかり忘れてし…
寝台特急サンセット倫理。真夜中に出発し夕暮れ時を目指して旅に出る列車。抱えきれない憂鬱と、こなしきれない現実と、堪えきれない嗚咽から遠く遠く離れてしまうための列車。悲しいくらい澄んだ目をして、激しい痛みに吐き気を催して…
線路は緩やかで大きなカーブを描いて、西へ西へと伸びてゆく。海岸線の波打ち際から吹き付ける風に乗って飛沫が舞い上がり、月明かりに照らされて青白く光る。しずくの中に秘められたミネラルと砂粒が極小のプリズムになって一瞬の煌め…
よく晴れて薄い雲が少し浮かぶ間抜けな青空を羽ばたいてゆくスワンが一羽。セメント工場のタンクの上を音もなく、泳ぐように滑るように飛んで行く。何もない街の何もない遅い朝の何もない道のうえで、何もない人生を歩んで、見上げた空…
彼女の眼差し、面影にも慣れてきつつあったある晴れた眩しい朝。少し肌寒さを感じて布団を寄せようとぐっと引き上げるときに妙な手ごたえを感じた。ずっしりとしたそれは重さでいえば5キロ少々。健康な赤ん坊くらいの重さのずっしり感…
静岡県静岡市。午後3時20分。バイパスの丸子(まりこ)インターを降りてすぐの小さなアパートメントの一室に彼女は住んでいた。名前は「ななきる」と名乗った。勿論ハンドルネームだ。ななきる、とは7キルのことで、つまり七度の人…
ぶづんっ! と ばつんっ! と ぐぶちゅっ の混じり合った、複雑で湿りきって粘膜質な、嫌な音が響いた。そして僕の頭上から好き放題降りかかる濃黄色のドロドロした液体を浴びながら、ロクにほぐさず潤滑剤代わりに素肌用の乳液を…
「ああーー、ハオいわー」 ???「っあーあ」 あれ、今あぶくちゃん居た?「ねえ、あぶくちゃん?」「んんー?」「ああ、やっぱ聞こえるんだ」「ほーんと、壁、うっすい!」 ガタタンガタタン……列車はスピードが乗ってきて、車輪の…
無人駅を闊歩する虚空の雑踏。顔のない人いきれのなかで、僕は彼女の姿を見失ってしまう。狼狽える僕の目の前にブルーの列車が滑り込んでくる。 寝台特急サンセット倫理。それは夕暮れに向かって走り出し真夜中を目指す列車。あれに乗…
「泣きたくなるほど、ノスタルジックになりたい」「どうしたのあぶくちゃん。急にザ・イエローモンキーみたいなこと言い出して」 だから、狭いベッドの列車で旅に出ることにした。いわゆる寝台特急だ。近年では少なくなったが、今でも幾…
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