第42回「点けっぱなしの憂鬱」

古びたラジカセが鳴っている
もうすぐ停まるラジオ局
最後の電波はオルゴール
緑からオレンジになる
ランプが右から左へ光る
古びたラジカセが鳴っている
もうすぐ停まるラジオ局
最後の電波はオルゴール
緑のランプが消えたまま
暫く黙っていたんだよ

 思いつく限りありったけの罵詈雑言をぶつけたいほど嫌いな映画がある。あれほど酷い、価値のないものすら作品と呼ばれ世に送り出され一定の評価をされDVD化もされる、というのが如何に素晴らしく文化的な世の中であるかを痛感する。そんな映画
 イケ好かないペテン師のコアラが、イケ好かない声でもっともらしいことをクソみてえに垂れる。聞いてるだけで背中がイライラムズムズする
 差別に満ちた動物表現、虚言と嘘と出まかせを子供向け表現で塗り固めて正当化したデジタルのクソツボみたいな映画だ。子供のやる事だから、で全部オッケーになったマコーレー・カルキンのヒット作よりひどい
 銃と爆炎と血に溢れた怒りのデスロードの方が、よほど優しくメッセージ性に優れている。あれは女性の映画だ。特権階級を独占する古い男の支配を、ハンディキャップを抱え抑圧され続けたカッコいい女性が打ち倒す。女性のための映画だ
 そのカッコいい女性たちにとって都合のいい助っ人や捨て駒、そして目の上のタンコブとしてしか、あの映画に男は登場しない。目的を果たしたとき、助っ人の男は見返りを求めることなく黙ってその場を立ち去り、若い捨て駒は捨て駒らしく命を散らす
 まだあの砂と戦争の映画の方が見る者に優しい。そのぐらい酷い映画を見る気もないのに見せられているような気分になるのが、平日の昼間だ
 会社の詰め所で点けっぱなしのテレビ
 周囲がみな古い人間だからなのか、長年の習慣なのか、いつも同じチャンネル同じ番組が点けっぱなしになっていて、平日昼間のロクでも無さ過ぎて語るのも嫌になりそうな番組が垂れ流されている。特にあのサングラスにスーツの男が去った正午の時間は最悪で、目も当てられないし耳も貸したくない
 土着企業のブラックワンマン社長の昼休み
 と呼ぶべき、あの一連の時間。出演者も番組制作者も視聴者すらも、司会の俳優に阿るような時間を過ごす。あそこであの男に気に入られていればとりあえず仕事がある、そんな感じが実に居心地悪い
 何しろ誰も見ていないようで誰かが見ているかもしれないテレビ、ほどタチの悪いものはない。消せというのもカドが立つし、好きで見ている奴が居た日には確実に齟齬を招く。見るなら見ればいいが、ただ点けっぱなしにしておくには最悪の時間帯と番組だと思う。正午から、夕方のドラマの再放送が始まるまで
 そんな時間帯にテレビの音が気に障るような仕事のヒマさ加減も大概だが、こんな時間にこんなものを垂れ流して浴びっぱなしになっていては、そりゃ正確な情報も入らないし冷静な情緒も保てないというものだ
 サングラスにスーツの男が去ってから、この国には災禍が押し寄せている
 と、或るカートゥニストが呟いた
 そうかもしれない。それがこの奇妙で悲惨な物語の、最後の引き金だったのかもしれない
 フィクションであれば、どんなに良かったか
 誰もが望む結末として、あの司会の俳優が惨めで惨たらしく哀れな最期を迎えてくれるのなら、その残酷カタルシス劇場のエンディングまでは付き合ってやれるというものだが
 果たしてどうなのだろうか

 テレビについて文句言うぐらい今日びダサいことないんだけど、だからって看過するには抱えきれない。受け流せるだけの情報量をとっくに超過している
 自分の役割を果たすことで得になることがあればそれでいいのだろうが、少なくともあの時間帯には視聴者にもあれを甘受するという役割を押し付けられているような、そんな気がしてならない
 もはや「そういうこと」にして押し切れる時代は過ぎ去ろうとしている。パブリックコメントもモノゴトの数値も、密室で書き換えられる時代は終わった
 にもかかわらず「そんな時代は訪れていない」ことにしようとしている、その断末魔なんじゃないか、と思えてならない
 独裁者が視察列車に乗って通過する、その沿線にだけ米や作物をかき集めて積み上げ
「おかげ様で我々はこんなに豊かです、万歳!」
 とやるようなことは、もはやどこの世界でも時代遅れで
 この世間でだけそれが続いている
 つまるところ、その瀬戸際を生きているのかもしれない

 しっかり見届けてみたい
 世界の変革と、あの司会者の坂の上から転げ落ちるような忍び難き惨めな最期を

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