泣きたくなるほど、ノスタルジックな夏でした。
愛知県田原市の、三河湾に面した県道から山側に逸れて細い道を辿って辿って。読み方のよくわからない古い地名の付いた場所。ギラつく陽射しが舗装もされてない土くれの道路に降り注ぎ、植え込みや田畑の緑が濃密に匂いたつ、暑い暑い夏の日。苔むしたカーブミラーをひとつ、ふたつ、みっつ数えるまでに天国に。坂道を昇って昇って、背丈よりも高い山茶花の生垣に挟まれた路地の向こうで嗤う、陽炎を追いかけてゆく。
やっと着いた海の見える里山の片隅。夏の細道の突き当りにある平屋の古い民家が、彼女の住まいだった。雑木林に囲まれた広い庭に、母屋と向かい合うように建てられた離れに弟といっしょに住んでいた。庭の真ん中には井戸があって、お風呂とトイレも母屋と納屋の間にあった。
蝉しぐれが質量を持ちそうなほど、十重二十重に渦を巻くように鳴り響く遅い朝。
僕は彼女の離れで仰向けになり、汗だくで天井を見上げていた。この部屋にはエアコンもない。緑色の半透明の羽が付いた古い扇風機がひとつ、ダイヤル式のタイマーをひねるとガタピシ回っているだけだった。じっとりと濡れた素肌の下には、薄くて少し匂う煎餅布団。汗や塩辛い体液が染みついては乾き、また湿っては乾きを繰り返したせいで、少しでも湿度を含むと途端に臭気を放つようになってしまった。
隣で横臥する彼女のお尻から濃い紅色の血が一筋垂れて、煎餅布団まで届いて丸く赤黒い染みを作った。
肩を震わせてすすり泣く君のしゃくり上げるような息遣いに合わせて、肛門内部に注ぎ込まれた精液が血液や腸液や便を含みながらブベベベ、と惨めな音を立てて漏れ出ている。その音が余計に悲しく、切れた肛門内部が痛むのか、裏切りに染められ蹂躙された心が痛むのか、君の涙の粒が一層大きく熱くなる。
出会って付き合ってから、ほぼ一年が過ぎた。一緒にいる間ずっと無口で殆ど喋らず、誰に対しても少し心を閉ざして生きてた君。僕に対してもそう。簡単な受け答えは頷くか首を振るだけで、そうじゃなければ照れ笑いや苦笑いぐらいだった。それでも君の言いたいことは、なんとなくわかる気がしていた。なんとなく君にも、好かれているような気がした。
だから心より先に、カラダの方を開いてもらうことにしただけだった。
僕は泣きじゃくる彼女を背中から抱きしめて、無理矢理こちらを向かせて唇を貪った。涙と鼻水で沈みかけていた彼女の唇は塩辛く、嗚咽と過呼吸で乾ききった舌や歯の裏側からは酷いにおいがしたが、構わずに唇を押し付け舌をねじ込んだ。ごちょ、ごちゅ、げぼっ。と、粘膜や舌や歯と歯茎が絡み合いぶつかり合う音が響く。それに抗いむせた彼女の、嘔吐寸前の醜い咳を喉の奥に押し込むようにのしかかり足を開かせる。太く少したるんだ、だけど肌触りのいい太ももを固く閉じようと抵抗する彼女の、内ももや足の付け根の筋肉を膝の骨でゴリゴリ押して許さない。呆気なく開かれた股座に避妊具もつけずそのまま滑り込む。血と汗と抵抗による湿潤で、これまた塩気と酸味の強いにおいをまき散らす彼女の中心に呆気なく這入り込む。
それとともに、離れの引き戸が開いたようだった。海底二万マイルに沈んでいるような重苦しい雰囲気とは裏腹に、カラララ、と軽快な音を立てて横に滑るコゲ茶色の安っぽいサッシ。
「あ、ああ、その、お茶……」
いつ会っても目が泳いでいて、コチラを見る顔が引きつっている彼女の親父が目にしたのは、尻から血を流し号泣しながら、初めて出来た彼氏に布団の上で犯されている娘の姿だった。大事な娘の処女喪失は幸福なセックスですらなく、しかも犯されたのはこれが最初でもなく、長年見慣れた敷布団のシーツには血液と精液と腸液と便の混じった、まだらなシミがミクロン単位で広がり続けていることすらも明々白々な有様で。
手に持った麦茶を乗せた盆を足元にひっくり返し唖然とする父親と、その音で彼の存在に気付き、自分が一体なにを目撃されたのかを悟る娘。問答無用の地獄絵図の始まりだ。


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