苦須賀(にがすか)発、雨降りキノコ団地行き快速特急は定刻通りに苦須賀駅のプラットフォームからゆっくりと走り出した。紺色のボディに淡いクリーム色のラインが入ったツートンカラーのパシナ型機関車と、お揃いのペイントを施した客車がぞろぞろと並んで線路の上をガタゴト走る。
明け方の雨降りキノコ団地は霧の中。静けさのなかに沈み込んだような、四角い、巨大なシルエットに朝日が差して、まるで黄泉の国へと迷い込んだみたいだなって。
墓碑銘の連なる没衆都(ぼっしゅーと)の中央駅(セントラルステーション)。
没衆都中央駅(セントラルボッシュート)名物、スーパーおにぎり君弁当おひとつ550円。
彩り豊かな特産品の煮物、揚げ物、炒め物。それとでっかいおにぎり君。ぎっしり入ってお買い得。お求めは駅構内の売店か、車内販売をご利用ください。
色褪せたチラシのやぶれた先に記された旧時代のテレフォンナンバー。
市外局番を、お間違えなく。不死鳥は、炎を浴びて蘇る。
おにぎりを食べたら出掛けよう。指定席に腰かけて、背もたれを少し倒して、いまどき胸ポケットに切符を差し込み、車掌さんが来たらサッと見せよう。
切符を拝見、切符を拝見、ラップを巻いてる、名物おにぎり。
つまらない。何もかもがつまらない。
当たりも障りも毒も無い、わざわざ言う程の事もない。それは一体なんなんだ。センスも気持ちも欠片もない、言うだけ無駄な溜息ツール。
あまりの下らなさに足も攣る。壁や柱に絡む蔓。沼から空へ飛び立った鶴。それを見上げて我が身は沼で、今すぐロープで首を吊る。
お昼すこし前の雨降りキノコ団地は間延びした陽射しの中。猫も杓子もポカポカと暖かな場所を探して、虚ろな目をして彷徨い歩く。ねえ、と伸ばした手が何処までも伸びてゆく。待って、と差し出した指先が見えなくなるまで飛んで行く。躓けば宙に浮き、寝転がったら空を飛ぶ。充血した目玉が爛々として、吸い込んだ息に虹色の模様が見えて、床に沈みながら溶けたレンガの壁の中を泳ぎながら浮き上がる。
近づきながら遠ざかる、足音を捕まえた。ズキ、ズキ、と頭痛が日増しに酷くなる。目の奥から首筋に向かって白くガチガチに凝り固まった筋や血管が伸びている。まるで干からびる寸前の軟体生物のように潤いと柔軟性を秒刻みで失う病気寒い牛笑う。
目に見えないお友達は口の中。自分で自分の歯茎と話す。ピンクの肉片歯肉炎、小林製薬の糸ようじ。歯周病にはご用心。
ルー・リードを口ずさみ、見上げた星空を追われ突然走り出し燃え尽きる流れ星。火花を散らしながら。言葉もなく。ただ追われたさだめにも抗わず燃え尽きる流れ星。
頭痛が広がり、痛みの点を結んで頭の中で繋がる痛みのゾーディアック。堪え切れずに放った拳がガラスを突き破って魔が差すファンタジー。
異世界転生、異世界転生、伊勢丹の前にジェットシン。
サーベル片手に買い物客を追い掛け回して異世界転生。狂った男が海を渡ってはるばる来るってサーベル振るって元気に狂って。
アスファルトに豪雨、JR新宿駅の東口は猛暑、立ち込める濁った靄が浄化する狂った街角。
秋冬春夏、遠ざかる季節ばかり惜しむ日々。季節が追いかけるものから過ぎ行くものになったのは一体いつからだっただろうか。悲劇の主人公を気取る人ほど、呆れて離れる優しい人をキチンと選んで追いすがる。それが一番キモチイイから。だけど段々、選べなくなり。そのうちハズレを引いて自業自得の喜劇になる。
川に流れ海に沈み、無意識の世界で不思議な生き物たちを見た。
光のない暮らし、灯台下暗し、水陸両用のガムを噛んで酸素の味を確かめて。虹のない場所、仕方ないでしょ。ここは深い海の底、誰にも見つかりたくない人のための場所。
100年経ったら教えてくれ、全部終わったら起こしてくれ、それまでここに潜っていたい。100年経って全部終わったら、やり直すんだ。すべてみんなと同じように。
あんたと同じ人生さ、楽しみだ。仕事、給料、年金、ラジオ、テレビ、クリスマス、スポーツ、税金、控除、クルマ、保険、車検、みんなと同じ人生を。
寿命を数えながら。
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