#不思議系小説 第117回「粘膜サンシャイン20.」

干潟のあぶく

 黒髪もさもさで全身カミソリの切り傷だらけな色白たるたるボディのメンヘラ地味っ娘は期待通りの毛深さと腋毛の持ち主で、酒臭さと生臭さの混じりあった吐息を遠慮なしに僕の顔に吐き掛けながら、開けっ放しの窓にもお構いなしに喘ぎ続けた。
 こういう一見大人しそうで自己主張しない女の子に限って、実は情が濃くて、いざ寝具に入るとスケベで、おまけに殆ど例外なくクリトリスが大きい。真っ赤に充血して真ん丸になって、RED LIGHTという言い回しがこれほどしっくり来る状態も無いだろう。言い得て妙というやつだ。
 まさに赤色の豆電球みたいになった彼女の陰核を指や唇や舌先で弄ぶと、面白いように体を跳ね上げのけぞらせた。

 密林のような腋毛の向こうから、汗で流れ落ちたデオドラントを掻い潜って漂う腋臭。湿ったシーツと枕カバーから漂う甘ったるい芳香。空き缶や吸い殻の匂いが外からの生ぬるい風に乗って部屋中に充満するやらしい匂いと混じりあう。
 いい時間だなあ。
 爛熟しきった身体に備わった全ての孔と粘膜を使って僕を受け止め、飲み込んでくれた。こんな地味で大人しそうなのに、どこもかしこも使わせてくれるし、使ったことがあるのが素晴らしい。お互いの性器を貪ったあとの口と口を合わせ舌を絡め合うことをオーラルセックスと呼ばずに、一体なんて呼べばいいんだろう。

 目が覚めると、随分と日が高くなっていた。
 耳鳴りがするぐらい、いい天気だ。彼女は僕にもっちりとした白くてまあるい大きなお尻を向けたままスースーと寝息を立てている。お尻の谷間からはみ出した長く立派な陰毛が目に優しい。
 米粉のバンズにヒジキでも挟んだみたいだ。

 もしかすると彼女が起きるだろうか、と、わざと大きな動作でギシギシとベッドから降りてみたが、まるでこの世の全てを忘れ去ったかのように、白目を剥いて涎を垂らした恍惚の寝顔を見て、そのまま出てゆくことにした。
 玄関に脱ぎ散らかされた靴を探していると、部屋の中が信じられないぐらい乱雑な様相を呈していることもわかった。とてもじゃないが人間が生活する環境ではない。が、泥酔と酩酊で人間を辞めてしまえば、別にどうでもいいのかもしれない。目が覚めて正気に戻る前にまた人間を辞め続けて目を逸らしてきた。その暮らしの積み重ねが、この有様というわけ。

 ゴミゴミとしたオーサカの町に混ぜ込まれ攪拌され続けた、空前絶後のゴミ箱のようなこの部屋の中で、正気を酒気帯びでねじ伏せたゴミ溜めの妖精さながらの暮らしを彼女は今夜も、明日も、明後日も……その心身を流れ蝕む薬剤とアルコールの効き目が途切れるまで続けるのだ。
 そう、その日が彼女の目覚めの日になる……。果たしてそれが幸福なのか。正しく健康的で文化的な生活に戻ることが彼女を救うことになるのかは、わからないしどうでもいい。ただお望みとあれば、昨日あれほど言っていたように早いとこ楽にしてやらないこともない。これだけゴミがあれば、さぞかしよく燃えるだろう。
 埃も積もっているし、スプレー缶やライター、どこで手に入れたのかガス圧式の拳銃まである。これらに引火しただけでも、この部屋なら一瞬に火の海になるだろう。でも……。
 やっぱり、もういっぺんぐらいエッチしてからお別れしたかったなあ。

 おやすみ、愛しの色白たるたる彼女。
 僕は心の中で呟いて、ドアを開けて部屋を出た。彼女の匂いが濃密に染みついた指先をパチンと鳴らすと、バタンと閉じたドアの向こうが一瞬で火の海になった。
 勢いよく燃え上がった炎が通路に面した窓を突き破り、古ぼけてざらついた安っぽいアルミ製の面格子を吹き飛ばす。酸素を取り込んだことでひときわ大きくなった炎がベランダ側の大きな窓もガシャンと突き破られた音に紛れて、まるで薬とアルコールの恍惚から覚めた正気の悲鳴みたいなものがかすかに聞こえたが、すぐに年代物の火災報知機のベルや近隣住民の騒ぎに紛れて聞こえなくなった。

おやすみ、焼けあとの正気ちゃん。

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ダイナマイト・キッドです 写真は友人のクマさんと相撲を取る私 プロレス、格闘技、漫画、映画、ラジオ、特撮が好き 深夜の馬鹿力にも投稿中。たまーに読んでもらえてます   本名の佐野和哉名義でのデビュー作 「タクシー運転手のヨシダさん」 を含む宝島社文庫『廃墟の怖い話』 発売中です 普段はアルファポリス          https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/376432056 小説家になろう                   https://mypage.syosetu.com/912998/ などに投稿中 プロレス団体「大衆プロレス松山座」座長、松山勘十郎さんの 松山一族物語 も連載中です そのほかエッセイや小説、作詞のお仕事もお待ちしております kazuya18@hotmail.co.jp までお気軽にお問い合わせ下さいませ

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