The Best Is Yet To Come
「The Best Is Yet To Come!!」
「うぼげえぎゃ!!」
リーダーと思しき拡声器を持った白塗りクソ男が指揮棒を振り上げたが、それより一瞬早く、詠唱が店の中を走った。
白塗りクソ男の隣に居た、この中の誰かと二度や三度は絶対ヤってたであろう白塗りの、同じぐらいめんどくさそうな女の顔面が豆粒ほどにブッ潰れて、プッチンと可愛く破裂した。
「死にざまだけは可愛かったな。良かった良かった」
「貴様! 忌苦姫(キクヒメ)に何をした!」
「お前なあ、言うにコト欠いて……もっとマトモな名前は無かったのか。それともアナルフェチなのか、彼女は」
だとしたら惜しい事をした。
「成敗!!」
「応! 天誅!!」
店に居た数人の、同じような顔をした、同じようにバカみたいな衣装で身を包んだ連中が一斉に腰から下げたカタナに手をかけた。
「丸腰の人間に向かってカタナ向けるってのは、どういうことかわかってるのか?」
「黙れ!」
「いいんだな」
「お前を殺す!」
「じゃあ僕も殺す」
言い終わるか否かという内に一歩踏み出して、いちばん近くに居た丈の長い学ランに学生帽、白塗りのチンチクリンの首っ玉をむんずと掴むと、そのまま全力で壁に向かって突っ込んだ。
砕けた調度品と僕の体でバチンと挟まれたチンチクリンの内臓がお腹の中でミンチになって、どす黒い肉片混じりの血反吐を吐いて息絶えた。
「お前も」
そのチンチクリンだったミンチの入った肉袋のすぐそばには、似合わないレザーコートに背広を着て、顔を包帯でぐるぐる巻いたミイラの紳士が茫然と突っ立っていた。コイツはカタナでなくちょっと大きめのナイフを持っていたが、構える間もなく
「Come on baby, light my fire!」
僕の詠唱と共に顔面を火だるまにされて、叫びながら窓から飛び出して落っこちて死んだ。直接の死因は、窓の下に散らばっていた大きなガラス片の上に落ちて、運悪く頸動脈を切り裂いての失血死だろう。
「お前も!」
僕を背後から斬りつけようとして来た、白塗り学ラン長髪の男の鼻を、振り向きざまの肘鉄で潰す。仰け反ってよろけたところを捕まえて、そのままクルっと体を入れ替えて盾にする。そこへ、ギラリと光るカタナが振り下ろされて長髪の体を袈裟懸けに切り裂いた。
「だ、團長ぉ……!?」
白塗りさんチームの首魁は團長と呼ばれているらしかった。ヒトなど切ったこともなく、ましてマジの戦闘などする気も無かったであろう連中にしては、團長の太刀筋は悪くなかった。
「白いの、アンタ結構やるねえ。どこで習った?」
「十天流紫電一刀斎より皆伝なり!」
「ごめん聞いたことねえや」
「ウジエェーーッ!」
團長が目を血走らせ、問答無用で切りかかって来た。血道をあげた流派を知らねえと切り捨てられてキレたのか、もう助からないと悟ったのか。生き残った白塗りさんチームの団員たちが二名、壁に張り付いて動けなくなったまま固唾を飲んで見守っている。
カタナが空を切り、ギラリと光る。また一つカタナをかわす、ギラリと光る。
ちりん。
カタナをかわす、何か小さな、鈴のようなものが鳴った。
まさか──
僕は恐る恐る、音のした方に目線を向ける。團長から視線をそらさず、八方目(はっぽうもく)で視界を拡げて、目の端にそれが入るように見る。そこには……
天使のようなモコモコした翼を生やしたネコがニッコリ笑った、手のひらに収まるくらいのアクリルキーホルダー。
(あたしだと思って大事にして……あたしだと思って大事にして……あたしだと思って大事だいじあたしだと思って大事思って思って大事にして大事にして……あたしだと思って大事あたしあたし大事に思ってあたしだとして……あたしだと思って大事にして……)
どくん、と大きな脈動を感じたと同時に意識がキィーーンと耳鳴りの向こうに遠ざかってゆく。全身を後悔と怒りの入り混じった濁流が駆け巡り、心臓の中で精製された殺意になってさらに血管から細胞のひとつひとつに充満していくのがわかる。怒りで我を忘れてしまおう、コイツに全てをぶつけてしまおう。怒り狂っている筈なのに妙に頭の中は冷静で、もういいや殺しちゃえ。と僕の中で僕が囁く。


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