#不思議系小説 第160回「粘膜EL.DORADO 7.」

 ビルの外を誰かが駆けて行った音がする。
「ね、ねえ! あの人ほんとに戦うの?」
「勿論さ。マノならきっと大丈夫だよ」
「でも……」
「心配いらない、ボクたちが居ると思う存分に暴れられないんだ……だから、コレで」
 ボクは懐から幾つかの部品と10センチほどのカマボコ板みたいな本体を取り出して手際よく組み立てた。それはジャイロと送信機を搭載した小型ステルスカメラで、ボクが下宿の工作室でコツコツ作っていた新兵器だ。
「こんなオモチャみたいので大丈夫なの?」
「任せてくれ。見た目はオモチャみたいだけど、実際オモチャみたく身軽で簡単に出来ている。だけど性能は抜群だよ、ドクトル・アマリージョに用意してもらった部品を使っているし、彼のお墨付きさ」
「へえー、あのモジャモジャ頭のポンバシ博士がねえ」

 音もなく静かに飛び上がったステルスカメラが送ってくる映像がボクの手元に端末に映し出される。それをあぶくちゃんと肩を寄せ合い、手に汗を握り、固唾を飲んで見守っている……この構図をマノに見られていなくて本当に良かった。映像の相互配信機能だけは付けないことにしよう。

「あんよの化け物め、あぶくちゃんの生活を脅かす奴は、僕が許さん!!」
 マノは躊躇うことなく南港の巨大な生足に駆け寄りながら、素早く右腕を伸ばして振り上げた。まばゆい光に包まれた彼の右腕が鋭い白銀の刃に変わり、それで生体部品の筋繊維や人工血液輸送配管を切り裂いてゆく。
 南港の両脚から赤黒い人工血液がブシッと吹き上がり、バランスを崩してよろめいた。しかし敵もさるもの引っ搔くもの、というように、そのよろめいた姿勢のまま右足で体重を支え、左足の爪先に装備した鋭い鉤爪を振り上げてマノを襲う。
 間一髪、鉤爪の一撃を交わしたマノがさらに踏み込み飛び上がる。狙うはレドームの探知機器群。あそこを狙えば……!

「In Your Face!!」
 と叫んだマノが、南港の頭上に着地するやレドームのてっぺん目掛けて左の拳を叩き付けた。飛び上がりながら彼の拳にはエネルギーが集中されて真っ赤に発光しており、それを猛烈な威力のパンチと同時に開放する。溜められたエネルギーが出口を見つけて疾走し、それは南港の機械群を貫きやがて両断した。
「ざまあみろ!」
 
 精密機器の詰まった南港の巨大な頭脳部がレドームのてっぺんを境に真っ二つに割れ、そのまま廃墟の街に溶け込むかのように崩れてゆく。ブゴ、ブゴォォ、と無様な断末魔を残し、生体部品の脚だけが機能停止を知覚するまでしばらくの間、ウネウネ虚しく宙を掻いていた。

「やったねマノ!」
「大したこと、してねえよ。オモチャをイッコ壊しただけだ」
 ボクたちはニッポンバシオタロードの最奥に構えるドクトル・アマリージョの店の二階の下宿に戻って、漸くひと心地ついているところだった。
 マノは巨大化や変身もせず、いとも簡単にあの巨大な南港を沈めてしまった。
「ちょっと前にチンピラ相手に暴れたときの方が、よっぽど派手だったんじゃない?」
「んー? まあ、な」
 どうやら直接、あぶくちゃんに危害を加える人間の方が、街で暴れ回る木偶人形より腹立たしいようだ。

「もうひとつ。壊してほしいものがある」
 そこへ突然、ボクたちの部屋に入って来た人物がいた。
 ムラのないグレーの髪と口髭、深いブラウンのスーツと革靴。銀色の眼鏡のフチが薄暗い明かりに反射して鈍く光っている。逆光のハレーションの中から現れた、その人物とは。
「ふ、府知事!?」
「ふ、府知事ぃ?」
「マノ、この人だよ。この人がオーサカの、トライアンフオーサカの府知事だよ」
「突然お邪魔して申し訳ない。私はブラウン。オーサカ府知事のブラウン日本橋(にっぽんばし)と言う者だ」
「急に訪ねて来よって、どないしたんやブラウン」
 府知事の背後からアマリージョの白髪頭がひょっこり現れて、気安く肩を小突いた。

「!?」
「ああ、気にしなくていい。私とアマリージョは昔からの友人でね」
「腐れ縁ってやっちゃな。ほんで、どないしたんや」
「実はさっきの戦いを見させてもらった。マノ君の噂は聞いていたが……租界の近くに南港が出たというので、もしやと思ってね」
「まーた独りで来よったんかいな、相変わらず無茶しよるわ」
「この街は私の街だ、何も怖いことなどない」
「お前が怖くなくても、お前に何かあった時が怖いっちゅうねん」

「O.C.Pと、一心会。か?」
「そうだ。奴等を、そして組織を……ぶっ壊して欲しい」
 アマリージョとの会話を背中で打ち切り、一転して険しい顔になったブラウンがマノに向き合って答えた。穏やかな表情、眼鏡の奥に鎮座する優しい目つきの奥で、怒りと覚悟の暗い焔がめらめらと燃えている。
「それなら今、僕たちも始めたところだ。だが先に言っておかなくちゃならないことがある」
「なんだ。何でも言ってくれ」
「少々、派手に暴れることになる。構わんな?」

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ダイナマイト・キッドです 写真は友人のクマさんと相撲を取る私 プロレス、格闘技、漫画、映画、ラジオ、特撮が好き 深夜の馬鹿力にも投稿中。たまーに読んでもらえてます   本名の佐野和哉名義でのデビュー作 「タクシー運転手のヨシダさん」 を含む宝島社文庫『廃墟の怖い話』 発売中です 普段はアルファポリス          https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/376432056 小説家になろう                   https://mypage.syosetu.com/912998/ などに投稿中 プロレス団体「大衆プロレス松山座」座長、松山勘十郎さんの 松山一族物語 も連載中です そのほかエッセイや小説、作詞のお仕事もお待ちしております kazuya18@hotmail.co.jp までお気軽にお問い合わせ下さいませ

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