無題のセクハラ~僕にだって小説かけるもん!~【セクハラ注意⚠】

 

無題のセクハラ

 

夕暮れの風景

明日は晴れるだろうか。

晴れたら四丁目の駄菓子屋「まるてん」にあんず棒を買いに行こう。

宗太はそう思いながら石ころを蹴り飛ばした。

カッッカッカと音を立てながら、蹴り飛ばした石ころは歩道の脇に転がって見えなくなった。

宗太は鼻水をすすりながら、意味もなく歯をカチカチと鳴らした。

ここから宗太の家まで、500メートル程だろうか。

宗太は世界で二番目にこの景色が好きだった。

歩道の脇にはツツジがまばらに植えられ、初夏には花が咲く。

このツツジの花は花弁の根元を舐めると甘いので、宗太はこの花が好きだった。

宗太にとってみれば、自然のおやつというわけだ。

しかし、宗太はこのツツジという植物の名前を知らない。

宗太の中では「甘い花」という認識で十分だった。

宗太は頭を使うことは苦手だが、外で走りまわったり、かくれんぼや鬼ごっこをするのが大好きであった。

今日もツツジの花を無造作にちぎったり、意味もなく指でこねくりまわしたりしていたので、宗太の指はうっすらピンクの色がついていた。

カラスが鳴いた。

あたりは夕暮れでオレンジ色に輝いている。

宗太は急に走り出し、息を切らせながら家へと向かった。

宗太は首からひもで下げている鍵を取り出して、自宅の鍵を開けた。

首のひもには大きな鍵と小さな鍵がかかっていた。

「たっだいまー」

玄関のドアを開けながら宗太は威勢がよく声を出し、乱暴に靴を脱いだ。

ここは宗太と大人が住んでいる一軒家。

見た目はまるで廃墟のようにだが、宗太は気にしたことはなかった。

錆びだらけのトタン屋根に隙間風が吹くような平屋である。

あたりは雑木林のように雑草が生い茂り、表札もなかった。

線路が家のすぐ脇に通っており、10分に一回、電車が通るたびに家がきしみ、その際は騒音で会話もままならなかった。

「あぁー、今日も疲れた」

宗太は、たいして疲れてもいないのにそういうと、勢いよく冷蔵庫を開け、何も入ってないことを確認すると、勢いよく閉めた。

戸棚からプラスチックのコップを取り出すと、流し台の蛇口をひねり、コップになみなみと注いだ。

ごくごくと喉を鳴らしながら、水を飲み干すと、小さなげっぷをした。

「うっちゃんも水のむー?」

宗太は家の奥のカーテンで閉ざされ、暗い部屋に向かって質問した。

返事はない。

宗太が、部屋のふすまを開けると、アンモニアの匂いがした。

まった、漏らしたのかよ、うっちゃーん。

宗太は暗い部屋の押し入れに向かってそう言った。

押し入れのふすまはボロボロでところどころ茶色く変色していた。

押し入れには小さな南京錠がかかっており、内側から開けられないようになっていた。

宗太は、首にかけられたひもを手繰り寄せ、小さな鍵を使って南京錠を開けた。

押し入れの中には、何もなかった。

いや、注意しないと見えないというべきか。

押し入れの隅には、体育座りをして身を丸くしている、何かがいた。

うわ、くっせぇな。

宗太はそういうと押し入れの中に隅で震えている何かを乱暴に引きずりだした。

それは人だった。

骨と皮のように痩せ、体は痣でまだら模様になっていた。

その痣は、黄色いものから紫のものから青いものまで、さまざまなグラデーションを見せていた。

おい、しっこは我慢しろって言ったよな。

宗太はそういうと、まるで石ころを蹴るようにわき腹を蹴り上げた。

ぐぃう。

ぼさぼさの髪をした、人のようなものは、うめき声をあげながら、部屋の隅まで転がっていった。

それはまるで、宗太が帰り道に蹴った石ころのような勢いだった。

ぐぅえ、ぐぅえ。

蹴られた箇所が悪かったのか、うっちゃんと呼ばれるものは、うつ伏せになりながら嘔吐しようとしているようにも見えたが、胃の中に内容物がないらしく、びくびくと震えながら呻くばかりだった。

宗太は、このぼろ雑巾のような女を見ながら、鼻くそをほじっていた。

「ほら、食え。」

そう言って差し出した宗太のひとさし指には、何やらねっとりとした大きめの鼻くそがついていた。

「ほら、食えよ、うっちゃん。」

うっちゃんと呼ばれるものは、身を起こし、四つん這いになりながら上目遣いで宗太のひとさし指を咥えた。

紫のつつじ

一か月ほど前、潮田香美(うしおだこうみ)は、ふらふらと道を歩いていた。

時刻はちょうど0時を回ったころだ。

潮田は都内の不動産会社で働く26歳であった。

であった、というのはちょうど本日、会社を退職したからだ。

無茶苦茶なことをいうお客にも耐えられなかったし、セクハラをしてくる上司にもうんざりしていたのだ。

それに、この前新宿の占い師に手相を見てもらった際に、会社を辞めるなら早いほうが良い、とアドバイスをもらっていた。

潮田の中で大きな決断だったが、私はまだ若いし、貯金も少しはある、どうせやめるなら2週間くらい旅行にでも行こうか、そんな考えで本日、退社してきたのだった。

友達の明美と3時間飲んで、セクハラ部長の愚痴をいい、明美の恋愛相談に見せかけた自慢をたっぷりと聞き、別れて、終電に乗り、まさに意気揚々としながら自宅への帰路についていた。

ああ、もうすぐでこの緑道のツツジにも花が咲くなぁ、そんなことをふんわり考えいたときに後ろから声をかけられた。

「お、お、おねぇさん、おれと付き合ってくれぇ」

潮田はびっくりして心臓が痛くなった。

恐る恐る振り返るとそこには、一人の男性が不安そうな目をしてこちらを見つめていた。

男の年齢は見た目からでは判断できなかった。

どんよりとした目をしているが、口元は笑っていた。

あたりが薄暗いのでよくは見えないが、身長は180センチ以上はありそうだ。

薄汚いTシャツと短パンからは丸太のように太い腕と足が伸びている。

その割に腹回りは病的に膨らんで、着ているTシャツからはうっすらとへそのふくらみが透けていた。

顔にも脂肪がつき中年にも見えるが、その顔には一切の深みのようなものがなく、まるで子供が急に魔法にかけられて大きくなったような、アンバランスな印象を受けた。

「ねぇ、おれと付き合ってよぉ」

男はもう一度そういうとさらに一歩近づいてきた。

怖い。

潮田はそう思った。

思うが先か、歩くが先か、潮田は男を無視して早足でその場を立ち去ろうとした。

潮田の心臓はバクバクと音をたて、その顔は恐怖で溢れていた。

しかし、その後の恐怖に比べれはこの時の恐怖など、取るに足らないものだった。

「無視すんなよお!」

そういうと男は駆け足で近づいてくる。

潮田は、あまりの恐怖に走りだした。

この永遠にも一瞬にも思える逃走劇は、すぐに幕を閉じた。

潮田は地面に吹っ飛び、倒れていた。

それが背後から突撃されたタックルのせいだと気が付いたのは全身に広がる痛みの後、気を失うまでの数秒のことであった。

街灯のあかりと歩道

潮田が目を覚ました時、最初に感じたのは全身の鈍痛、そして通り過ぎる電車の騒音だった。

自分に何が起きたのか、あれは夢だったのか、よくわからないまま、上体を起こそうとすると、不思議なことに身動きが取れない。

潮田が自分の体に目をやると、手足がピンクとブルーのプラスチック製縄跳びで縛られていた。

「おきた?」

とっさに声がした方向に目をやると、男が体育座りをしながら、こちらを見つめていた。

「死んだかと思ってビビった。起きてよかった」

男はそういうと歯茎をむき出しにした。

それが笑顔なのだと認識する余裕は潮田にはなかった。

ただ、怖くて、怖くて、心の中は恐怖でいっぱいで、全身に鳥肌が立ち、呼吸をするのも忘れてしまいそうだった。

やはり、あれは夢ではなかった、私はあの不気味な男に背後から吹き飛ばされ、ここに運ばれたのだ。

「なんか言えよ、おれは宗太っていうんだ。よろしくな」

宗太はまた、歯茎をむき出しにして笑ったが、口の中は糸が引き、ところどころ前歯はなかった。

潮田は今になって事態の異常性と、自分の置かれている状況を理解し始めた。

ここは、家の中、辺りにはゴミが散乱し、私とこの気味の悪い男しかいない。

恐怖のはざまで無意識的にごくりと唾を飲み込むと、幸運なことに口は閉じられていないことに気が付いた。

「あぁーーー助けてーーーーー!!」

潮田は力いっぱい叫んだ。

それはまるで大きなサイレンのようでもあり、豚の鳴き声にも似ていた。

喉には太い血管が走り、目からは涙があふれた。

顔が吹き飛ばされた。

潮田はそう感じたが、実際にはビックリした宗太が近くにあった雑誌を投げつけたのだった。

それでも潮田は叫び続けた。

それしか、彼女にできることはなかったからだ。

この極限状態において、本能的に潮田は叫ぶことしかできない。

それしか、できない。

それ以外の選択肢が、ない。

「うるせぇ!」

宗太は殴った。

耳のあたりを殴られた潮田は、鼓膜が破れた。

殴られた勢いのまま床に叩きつけられた。

「うううぅうう」

潮田は泣いた。

もう叫ぶ元気も出ないし、きっと私はここで死ぬのだと悟った。

そう思ったら、涙が溢れ出てきて止まらなくなった。

その嗚咽も、家の真横を通る電車の音でかき消された。

夜間列車が通る

潮田が泣き出してから5分ほど経った頃だろうか。

宗太が口を開いた。

「おれはお姉さんを殴りたくねぇ。」

意外な一言に潮田は混乱した。

先ほどは存分に殴ったではないか。

それを殴りたくない?一体何を言っているのだろうか?

しかし、この宗太の一言で潮田は希望を持ってしまった。

言葉が通じる。もしかしたら助かるかもしれない。

潮田は、初めてこの奇妙な男とコミュニケーションをとろうと思った。

「なんで?なんで、こんなこと、を、するんですか?」

信じられないことに男は赤面し、こう答えた。

「あの、あの、おれ、お姉さんのこと、あの、好き。」

好機だ。潮田はここで初めて理解した。

この汚い知恵遅れの男は、帰宅中の私を襲ったが、なんとそれは恋心からくるものだったと。

利用しよう。利用して、ここから逃げ出そう。そう思った。

「私はうしおだこうみ、あなたはなんていうの?」

「そうた」

男はそっけなく答えたが、耳まで真っ赤だった。

「そうたさんは、私のこと好き?」

宗太は、ゴクリと生唾を飲み込みながら、答えた。

「好きだ、いいにおいするし、あと、そうたって呼んでいいよ。おれはうっちゃんて呼ぶ」

潮田は心の中で喜んでいた。ここまでうまくいくなんて。後は、男の行為を利用して何とか逃げ出そう。そう思った。

「う、う、うっちゃんも、おれのこと好き?」

潮田は少しも考えないで答えた。

「好き!私もそうたのこと好き!だから、この縄をほどい・・・・」

潮田は言葉を失った。1時間後の自分がどうなっているのか理解してしまった。

なぜなら、宗太の股間が大きく膨らんでいることに気が付いてしまったから。

宗太は勢いよくズボンを脱ぐと、よだれを垂らしながら、自身のいちもつを大きく扱き始めた。

「おおお、好きって言った。うっちゃんはおれのことが好き!」

犯された。ひたすらに、犯された。

絶望の淵

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私は、ペニー長谷川と申します。 愛と友情さえあれば、あとは少し大きめのビームキャノンしか要りません。