第62回「ふたりは幸せな記憶の中で(前)」
玉虫色の水玉が光る液剤カプセルを、ふたりでひとつずつ摘み上げてかざす。色を変えては鈍く輝くアーモンド型のひと粒を口に含んでも、乾いた舌と喉がそれを押し戻す。まるでまだ悪あがきを諦めきれない無意識の抵抗であるかのように …
ハイパーグラウンドに ようこそ
玉虫色の水玉が光る液剤カプセルを、ふたりでひとつずつ摘み上げてかざす。色を変えては鈍く輝くアーモンド型のひと粒を口に含んでも、乾いた舌と喉がそれを押し戻す。まるでまだ悪あがきを諦めきれない無意識の抵抗であるかのように …
瞼ひとつ閉じるだけで、目の前の見慣れた景色が消え去って無限の暗闇が広がることが、面白くて仕方ないけど恐ろしくて仕方ない。アタマの中には今日も鳴り響くDREAMTHEATERと延々続く海沿いの田舎道 寄せては返す蛍光グリ…
片言のニホンゴを話す君の、黒くつぶらな瞳。鼻筋の通った顔に少し不釣り合いな小さくてクリっとした相貌が余計に愛らしい。シワの増えたであろう顔は数年前でも十分に若く見えただろうし、今でも年よりは若く見える。そして何より、そ…
ごく薄い、ピンク色の衣装で全身を包んだよぼよぼの老婆が二人。膝よりも上のミニスカート、ノースリーブ、フリフリのついた古臭いアイドル風の衣装とは裏腹の分厚い化粧で全身をコーティングした老婆が二人ちょこんと並んで座っている…
神経の海に溺れているよ。一つ目クラゲとイカデビル、泳ぎ回る力もなく、浮かび上がる波もなく、沈む時はあっという間で陽射しも届かぬ海の底 枯れた手のひらをなぞる小さな柔らかい手。瑞々しい指先で描かれた梵字の意味を調べていた…
おばあちゃんに会いに行く。秒読みが終わったらキーを回してギアを入れてアクセルを踏み込む。5、4、3、2、1、0、4、5。海の見える丘に建つ墓石の群れから、おばあちゃんを探し出すために 精神的支柱。気が強くて血の気が多く…
真夜中を切り裂いて走るヘッドライト。夢を忘れた夜、夢を失くした夜、空っぽの街角。夢、って、なんだっけ。僕の夢、君の夢、夢の国、夢の島、夢の色、街の色、空の色、風の色、全部振り切って何処か遠くへ向かうつもりで乗り込んだバ…
それは暑い日の真昼に飲んだマンサニーニャのあぶくのように、浮かんでは消える被害妄想と後悔の念。目を閉じれば次々流れる転機と迷いと優しい人々 何もかも振り切って、何かと理由を付けて、螺旋階段を転がるように堂々巡りで落ちて…
日当たりのいいリビングルーム。真新しいテーブルセットの向こうで風に揺れる白いカーテン。10歳ぐらいの男の子が、にこにこしながらいそいそとやって来る。自分の身体と同じぐらいの古びた箱を持ち上げて それは古いボードゲーム。…
晴れ渡る空。果てしない空。そこに響く歌、その時の風。雲が流れる、膝から肩へ、爪先から指先へ、仰向けに眠る僕の死後も、世界がこんな素敵なものばかりで 満たされますように── せーの、で飛び出した。紺碧の海に満ち満ちたジ…
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