#不思議系小説 第175回「Juglans.4」
狭い路地を抜けて海の家や閉店したままの土産物店の前を通り過ぎて、横並びになった小さな店たちのなかに、彼女のお店があった。来たほうから数えてひとつ、ふたつ、みっつ数えたら、そこに彼女のお店は無かった。いや、お店の建物自体…
ハイパーグラウンドに ようこそ
狭い路地を抜けて海の家や閉店したままの土産物店の前を通り過ぎて、横並びになった小さな店たちのなかに、彼女のお店があった。来たほうから数えてひとつ、ふたつ、みっつ数えたら、そこに彼女のお店は無かった。いや、お店の建物自体…
裸の君を思い浮かべるよりも、黒い長い重たいコートを翻して波間で笑う君のことを思い出す時間の方が、いつの間にか長くなったよ。 昼間、店がヒマだとよく二人して砂浜に降りて行った。 一方通行の細い道路を隔てて、段差みたいな…
人間を穢せるのが人間だけなら、人間を聖められるのもまた人間だけなのだ。 僕は二階建ての終着駅の階段を一人で降りて、シャッターが下りて久しかろう売店の前を横切った。立ち並ぶ自販機に目もくれず、そのまま無人改札を出て南口…
丸っこい展望車(パノラマカー)を先頭に、鮮やかなスカーレットで彩られた私鉄特急が終着駅のホームに滑り込んだ。「毎度ご乗車有難う御座いました。お忘れ物の御座いませんようご注意願います……」 と決まりのアナウンスが流れて来…
画面には白く踊るような文字で O.C.P魂の告白、市民生活へ真っすぐ激論! と勇ましい文字が描かれ、道頓堀橋の南側で演説する姿を捉えていた。勿論、周囲を取り囲む観衆や放送に携わる関係者、技術者、番組に感想を送ってよこす…
それからこれは流動砂式焼却銃、サンドストーム13っちゅうやつや。13はワシのおった十三にちなんで……それはどうでもええわい。こいつは補給が途絶えてもタマ切れに悩まされんと戦えるように造ったんや。中身は砂。どこにでもある…
壊れかけの海上クレーンが軋みながらすくい上げる記憶の泥濘。 夢の産まれる紫の海の底から見上げる、紫の空、紫の海、紫の波、紫の鱗、紫の瞳、紫の唇、紫の肌、紫の鎖、紫の涙、紫の疵、紫の脳、紫の光、紫の心、紫の記憶、その泥に…
かつて夢の国と呼ばれ多くの人々で賑わっていた、東京湾内にある埋め立て地の荒野。ある日、そこへ轟音とともに群れを成してやって来た重機たちがあっというにスリル満点のローラーコースターやプリンセスのお城を取り壊し、さらに近隣…
日本が旧東京都とその周辺都市を除く各自治体の独立宣言によって分裂し、東京都および旧首都圏都市連合が周辺の独立宣言表明自治体との対立を続けるさなか。東京ヘッドクオーターは各地方都市に分散して建造された火力、水力、原子力ほ…
片面は扁平で片面は雨粒のような曲線を描いた、握り拳ほどの青く透明なガラス球が雑然としたテーブルに転がっている。手に持つとズシリと重い。扁平な面を下にし、埃を払ったテーブルにそっと置いてみる。ゴトリと低い手応えを残し、半…
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