#不思議系小説 第75回「GACHI Blue」

 青。空も海も山も、みんな青い色をしている。だけど、その青は一つ一つ全然別の色をしている。青い、蒼い、碧い。全部同じで、みんな違う。好きも、すきも、スキも、愛も哀も藍も。きっと全部違う。

人から好かれたことも無い癖に
人に嫌われることが怖くて仕方なく
憂鬱の台風37号をいつまでも
後生大事に抱えて生きてる
ソーシャルディスタンス
保って泣こうね
離れ離れの人生だけど
このサヨナラだけは忘れない

 白いタオルが飛んで行く。青い空をひらひらと。風をはらみ空をつかみ、カタチも重さも感じないで飛んで行く。せっかく覚えた手触りを確かめる頃には、またひらひら。
 背は低いほうだ。頭髪も薄く、オデコが広くなってきた。入る会社を間違えたと、後悔してたら夏が終わってた。もう若くはない、と、まだまだ若い、の狭間で本来であれば順調に人生の足場を固めてゆくべき時期を丸ごと一年間、棒に振った気分で過ごした。何をするにも遅きに失した気がして、自分は何も手にすることが出来ず、何も残せておらず、何もなすことが出来なかった。僅かな成功や風変わりな挫折に縋り付き、自分の選択に自信を無くし、責任から逃げようとしていた。そんな自分の人生に自分で呆然とし、後悔と諦めと怠惰の染みついたことすら諦めて呆然として過ごしていた。君がそんな僕の言葉を聞いて笑ってくれるまでは。

 銀の指輪で手錠をかけてた、時の砂に埋もれた十二時の針の手錠が弾けて飛んだ。死んでた日々の目の前が晴れて、そこで君が笑ってた。細くて丸い銀の眼鏡と、今や必需品になったグレーや黒のマスクの、両方を外した君の顔を果たして何度見ることが出来ただろう。それ以外の色々も出来れば外して脱ぎ捨てて欲しかった、なんて、微塵も思ってないけれど。そうじゃなくても、こんなに素敵な人が居たんだ、そして、君に出会うために、このタイミングで自分は今ここに来ていたんだ。そう思う事ですべての辻褄を合わせて、ドラマチックな妥協と納得で心に重りを乗せて安心しようとしていた矢先に、僕は、また、その重りを退けられて中空を漂うことになった。重りを退けたのは、他ならぬ僕自身だった。

 別れを惜しんでくれて、憎からぬ言葉をかけてくれたことは心底うれしかった。今までの人生で、こんな綺麗で素敵な人に、ここまで言われたことは初めてだった。だけどそれは、ごく短い間に僕が見せた、僕の明るくて冗談が好きで調子のいい部分だけだったからだ。もっと嫌なところ、ダメなところ、間違っているところ、空気が読めず自分勝手で、イライラして短気な、そういう僕を見せたうえで、君が僕の事を「無理」になることなく、別れを告げることが出来たから、だったと思う。まず最初にそんな風に思ってしまうほど、僕は僕の人生を幸せだとか恵まれていると思う以上に、寂しくて後ろめたいものとして捉えているからだ。

 じりじりと色合いを失って、限りなくモノクロームに近い色褪せた人生に真っ赤な花が咲いたような気分だった。その花に触れたいとか嗅ぎたいとか言う前に、僕にその花を愛でる資格が無い事を、いちばん理解しているのが他ならぬ僕自身だった。

 だから、友達になって欲しかった。共通点を見つけるたびに嬉しくて、他愛もないやり取りをずっと続けていて、些細なことを褒め合って。それは今までずっと僕が欲していたこと、言葉、ひと。大丈夫だよ、頑張ってるね、よくやってる。僕は、ただ、そう言って欲しかっただけなんだ。居てほしい、そのひとことが、僕をどれだけ支えて、励まして、彩りを取り戻してくれただろう。僕の立場であったところで幸せだとは限らない、君が不幸だと言うつもりもない。誰だって人は人、自分は自分、いつだって一人だ。一人と一人に戻るだけ、何も変わらない。心電図が少し盛り上がって、また静かになっただけのこと。プラグを抜いたオシロスコープが音を鳴らすことなどないように、ひとことも交わさずに一日が終わることなんて、つい数日前までごく当たり前だったじゃないか。

 僕は僕の涙を拭って、別れを惜しんで、飛んで行く。
 もし君が泣いてくれたとしたならば、君の頬の涙を拭うタオルは何色ですか。

 白いタオルが飛んで行く。青い空をひらひらと。風をはらみ空をつかみ、カタチも重さも感じないで飛んで行く。せっかく覚えた手触りを確かめる頃には、またひらひら。

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ダイナマイト・キッド
ダイナマイト・キッドです 写真は友人のクマさんと相撲を取る私 プロレス、格闘技、漫画、映画、ラジオ、特撮が好き 深夜の馬鹿力にも投稿中。たまーに読んでもらえてます   本名の佐野和哉名義でのデビュー作 「タクシー運転手のヨシダさん」 を含む宝島社文庫『廃墟の怖い話』 発売中です 普段はアルファポリス          https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/376432056 小説家になろう                   https://mypage.syosetu.com/912998/ などに投稿中 プロレス団体「大衆プロレス松山座」座長、松山勘十郎さんの 松山一族物語 も連載中です そのほかエッセイや小説、作詞のお仕事もお待ちしております kazuya18@hotmail.co.jp までお気軽にお問い合わせ下さいませ
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