ラブホテルのバスルームの派手で冷たいタイルに、一旦シャワーでお湯を流す。濡れた床がすぐに冷える。そこに裸で寝そべってカメラを構える。何もかも丸出しの僕の頭上には、何もかも丸出しの女の子がスタンバイしている。黒い茂みの奥が良く見えるように足を大きく広げて、自分自身を指先でしっかり広げて、バスタブのフチに腰かけて、またはしゃがんで、バスタブに手をついて片足を上げて、壁に手をついて立ちバックの姿勢でお尻を突き出して……色んな体勢で、みんな僕のためにおしっこをしてくれた。
そんなとき僕は恥ずかしいくらいギンギンだ。
いつからだろう、女の子がおしっこをしてくれるところをカメラに収めるようになったのは。どんなあられもない姿よりも、卑猥なポーズよりも、行為そのものや結合部分の大写しよりも。
目の前の女の子の体の中から放たれる不思議なせせらぎに僕は魅力を感じるようになっていた。どんなに可愛い女の子でも美人で綺麗なひとでも出てくる場所は同じなのに、味も匂いも色も千差万別。顔や体つきや体臭、髪の色、バストサイズや性器の色形匂いと同じで、おしっこにも個性が出る。
大酒飲みで可愛くて人気のある宅配嬢は、派手な髪の毛と整った顔に似合わず物凄いエグみのあるおしっこを大量にして見せてくれた。結局は体内で分解されたアルコールと、不規則な生活を送っていることのおかげでそれだけ代謝が活発に行われていたのだろう。
素っ裸になって、ぴちぴちした白い素肌とむちむちした体のあちこちにある派手なタトゥーを露わにしたまま僕の顔にまたがる時は、いつも
「ごめんね、じゃあ乗るね。ごめん」
と言いながら、誰よりも大量のおしっこを浴びせてくれたっけな。思い出すだけで、味も匂いも脳裏に浮かんでくる。あの時は工夫したつもりで風呂桶を枕代わりにして仰向けになっていたから、髪の毛にしっかりしみ込んでしばらく匂いが残っている気がしていたくらい濃厚なエールだった。
とあるサイトで知り合った女の子は年齢制限を超えたばかりで、ショートカットの黒い髪の毛とあどけなさが残る顔をしていた。体つきも押さなく小ぶりのバストに丸いヒップ、そして薄めのヘアーときてソッチ趣味の男にはさぞかし魅力的だろうと思われた。無論それを別としてもフツーに可愛かったし、しっかりおしっこもしてもらった。一通りコトが済んだ後のシャワーのついでに。
多少淡泊なところはあったものの楽しくベッドを降りて、二人でシャワールームに入った。小さな、華奢な体をしているのは、あまり裕福ではない生活を送っているからだという。家庭の事情、仕事、ホテルに向かうクルマのなかで散々相槌を打った身の上話。真偽も事実も知る由もない、どこか知らない街の知らない家で起こっている物語。素人がインターネットにアップロードする毛の生えた小説と、あまり変わらないなと思いながら浴びる、小一時間前まで赤の他人だった若くて可愛い女の子のおしっこ。
このあと彼女はそれっきり、隣町の宅配店に入店し暫くは人気を集めていたようだったがすぐに消えてしまって連絡も取れなくなった。散々聞かされた家庭の事情が、自分の家業が全部バレたせいで悪化したのだと言い残して。
どんなに他人でも、身近でも、顔見知りでも、裸になればすることは同じ。そこに少しだけ、お互いの好みが入るから面白い。
そして「おしっこを見せてほしい、良ければ撮らせてほしい」と願い出て、オッケーを出してくれる女の子たちの可愛いこと。現れては消えていった彼女たちが、自分の目の前で確かに裸になっていた。そのたった数分間の映像の連なりが証になって残っただけ。どこの誰だか、もうわからないような人たちばかりだ。
どこの誰だか知っていて浴びるおしっこと、どこの誰だかわからないような子から浴びるおしっこの、小指一本分の見えない差って一体ナンだろう。
目に見えるだけで見えてこない、目に見えるだけで見えてない、飛沫のプリズムひとつひとつに刻まれたエモーションが今日も懐かしい。
デビュー作「タクシー運転手のヨシダさん」を含む短編集
「廃墟の怖い話」宝島社文庫より発売中です
廃墟を舞台にした様々な怪談がお楽しみいただけます
ぜひお買い求めくださいませ
ツイッターやってます。雑多なアカウントですのでお気軽にどうぞ


最新記事 by ダイナマイト・キッド (全て見る)
- 48. - 2023年9月25日
- オルパンフェルフェル - 2023年9月20日
- 47. - 2023年9月18日
最近のコメント