Raining Blood
ありとあらゆるクズ共の色んな所から噴き出た返り血を浴びて、全身真っ赤になった僕の姿を見て、残りのクズ共が逃げ出すタイミングをはかって、後ずさって震えて。
コイツらが今、死にたいか死にたくないかは、もはや別問題だ。問題は僕の気分だ。折角こんなに集まったんだ、この際ハデにやろうじゃないか。
「お前らみんな観念しな。言ったろ。一人も生きて帰さねえ、って」
降り注ぐ血の雨を浴びたAngel Of Deathのお出ましだ。とくと見ろ。
「う、うう、うぎぃい……」
僕は全身に力を込めて、さらなる変身を試みた。ここまでやるのは久しぶりだ。市街地だし、あぶくちゃんも見てるかも知れない。だから、控えめにしないと……控えめ……控え、めぇ……め……めぇ、ぇ……。
みし、みしっと、膨張しきったかのように思えた肉体が軋んでたわみ、悲鳴のような音をたてて肥大化する。痛みと高揚感が混じり合い、ハラワタの底から湧き上がる衝動が叫び声になって白昼のニッポンバシオタロードにこだました。
「あああああああああああ!!」
今度は筋肉や骨格だけではない。体そのものがちょっと緩やかに、かなり確実に、違ってゆくだろう? ほら、こんなに大きくなった。
しゅうしゅうと沸騰する血液から湯気が立ち昇り、銀色に生まれ変わった髪の毛が反り返って固まり、返り血ではなく僕本来の体色である深紅のボディが干潟のような往来でゆらめく陽炎に包まれて輝き、集まったボンクラ共が世界の終りのような顔をし、声を失い、指をさし、今すぐ逃げ出そうと踵を返し、その一瞬を僕は許さない。
「待ぁてよ」
だいたいビルの3階くらいの高さまでデカくなったせいで間延びした低い低い声が、慌てて背中を向けた一人のボンクラを捕まえた。背中と胸をグイっと指先で摘まんで押し潰すと、口と耳と鼻からピンクの臓物を噴き出して立ったまま死んだ。
「ホラお前も」
逃げ出したはいいが不運にも瓦礫に足を取られてスッ転んだチンピラを踏み潰す。爪先から腰の辺りにかけてが、ベシャリという濁った音と共にすり潰されて人体だった肉片になる。
「あーあ、勿体ない。アビキの材料にでもしてもらえば少しはカネになったのにな」
は、は、は、と低い低い僕の声がビルの谷間でビリヤードみたいに跳ね返って往来に響く。
「さあ、殺せるだけ殺して遊ぼうぜ。汚れるだけ汚れるのもいいもんだ」
逃げる奴を片っ端から追いかけて、捕まえて、踏みつぶしたり殴り飛ばしたり。まるで庭の石をどけてアリやダンゴムシやナメクジを大虐殺するクソガキみたいに、ワラワラと逃げおおせる連中を殺して回る。いい気分だ、これだこれだ。
やっぱり暴力に限る。
「コラーッ!!」
その時。高く鋭い、澄んだ声が死屍累々のニッポンバシオタロードを貫いた。
声の主は店のあるビルに避難していた、あぶくちゃんだった。
「ちょっとお兄さん! お店の前を散らかさないでよ!」
ちょうど僕の顔の当たりに、彼女の小さな顔がある。彼女の居る場所の高さに、僕の大きな顔がある。
「アンタさっきからデカい顔して暴れてるけど、コレ、誰が片づけるのよ!? もう、いい加減にしなさいよ!」
僕の顔に向かって右手の人差し指を突き出し、銀色のオデコをカツンと突いた。
「せっかく助けてくれたのに、素直にお礼ぐらい言わせなさいよ!」
さらにもう一度、今度は僕の心をカツン、カツンと突いた。
(怒られちゃった……あぶくちゃんが怒ってる。せっかく助けようと思ったのに)
(でも、でも、だって悪いのは先に君を襲った連中じゃないか。絶対そうだよ、僕はゴミ捨てをしくじって散らかしちゃっただけだ。僕は悪くない。それなのに、あぶくちゃんの怒りの眼差しが僕を刺す)
(なんで、なんで……つらい……つらい)


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