増え続けるコンテナ。赤白グレー緑ピンク黄色にブルーの差し色が入って。
PaNCoM
SoniA
東亜貨物
百客東西
ASIAN Express
擦れて読み取れないものもある。無数のコンテナ。長方形のと、正方形のとある。ガントリークレーンの群れの中で卵のように運ばれてゆくコンテナ。船から運ばれてくるコンテナ。
中身は誰も知らない。それが何なのか、何を運び何処へ消えてゆくのか。それも、誰も知らない。
よく晴れた空に乾いた風がヒョオと鳴る。賑わいを見せた埠頭も今は昔、打ち捨てられたガントリークレーンの群れの中に取り残されたコンテナが一つ。
ひしゃげて、折れて、傾いて、崩れ落ちたクレーンたちの足元には、落っこちたコンテナが割れるに任せて放置されている。そこに海洋性耐塩紅蔦葛が絡みついて、網を張ったように広がっている。紅蔦葛の赤く爛れたように咲く花がそこかしこに開いて、まるで駄菓子問屋の倉庫に入り込んだような甘い甘い芳香を振りまく。
この匂いに釣られて、花の蜜を吸いに胴長混沌食泥虻やジュウタンモドキバチがやってくる。ジュウタンモドキバチは極小サイズのミツバチの変異種で、それが低空を何百、多いときには何千何万匹という群れをなして広がったまま飛んでくることからそう呼ばれるようになった。遠目で見ていると黒い半透明の絨毯がふわふわと飛んでくるように見える。ただし、夥しい数の蜂が飛ぶため羽音も物凄く、空飛ぶ絨毯ほどの風情はない。
海だ。海月だ。波打ち際にはビーチボール。
電子の砂浜、数式で満たされた漣。0と1の煮えたぎるマグマが海底火山で蠢いて。巨大な海月、大袈裟なイルカ、臆病なクジラ、冷たい甲羅のオドリガメ。
国道16と3/8号線、マイナス鎌倉街道を裏弘明寺まで北上してブルーラインの線路を走る。プラットホームに佇むコルセットを締めた白塗り御前。ノースリーブのワンピースでロングヘアーをなびかせて、汗ばむ首筋をふわりと冷やす両手を上げたら腋の下。
夜明け前の地下鉄駅を回転魚眼の三角レンズが俯瞰で見つめる春夏秋冬。何処までも俺を馬鹿にしていると血眼抜刀、コンビニ男がレジの女に催涙喰らって七転八倒。
シガレット咥えて長い長い休暇へ出発、火の点いた先端からじりじりと灼ける現実世界の喉元過ぎれば、後は野となれ山となれ。
身ぐるみ剥がされ万歳と、運動会が終われば用済み、ここらで辞めてもいい頃な。お払い箱のお笑い種だとお堅いあなたをお祓いします。天下御免のインチキ占い、三泊四日のトンチキ兄貴、姥捨て山から白骨拾って賽の河原でゆるキャンケンタッキー。
天使が注いだお刺身醤油、ラムネにかけて召し上がれ。グラスの中には茶色い原酒、時間厳守で一点先取、清廉潔白一流選手、溶けたラムネとお刺身醤油、同時に摂取、そのあとすかさず検尿採取。
伸びる伸びる青空へ、何処までも続くブルトンの無限階段を登り続けたその先にドア。開けたら階段、登って登ってドア。開けたら階段。登って登ってドア。
開けたら断崖絶壁、空へ落ちてゆく時に逆様の世界が見えたらエレベーターのボタンを押してごらん。2階4階6階9階、10階8階5階3階、7階に降りたければボタンを探せ、螺旋階段の何処かに置いてきたから。
マルハチ第32号リバーサイドハイツ西棟B413号室のリビングルームに井戸の鍵。灰皿で殴ればいと容易い。3階と4階の踊り場に共同倉庫の黒いドア。中にはゴザと枕とあたしと秘密。ピンクの撃鉄が軋む。ドアノブを撃ち抜いて中を開ければ首吊り老婆の干物が一つ。
凝り固まった首を回してねじってひねって伸ばして。心地よい衝撃と乾いた音が幾つも重なる不協和音、痛みを伴う人体騒音。白く伸び切ったまま固まるイメージ。それを真っ二つにへし折ってヘドロみたいに溜まった悪血(あっけつ)を押し流す。ドロドロどす黒い疲労困憊な酸化濃脂悪血が滞留すると動脈瘤。思考回路が破裂寸前、急いで口で吸え!
脈打つコンテナ。四角いコンテナ。赤いコンテナ。青いコンテナ。黒いコンテナ。
耳をすませば鼓動が聞こえる。膨らんでは凹んで、呼吸を繰り返すコンテナ。
生きているコンテナ。どこへ行くコンテナ。誰も知らない場所へ、この世界の、何処でもない場所へ。旅立つコンテナ。ガントリークレーンの群れの中から、いま船に乗って。
この世界の、何処でもない場所へ。


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