#不思議系小説 第136回「粘膜サンシャイン33.」

The Best Is Yet To Come

ガパン!

 と、たわんだ音がして呆気なくロッカーが開くと、中からは
「わあーーっ!」
「さ、サンガネ! こんなところに居たのか」
 鬼でも蛇でもなく、オタクが、わが友が出て来た。

「……へ? あ、ああマノ! 助かったよ。アイツら女の子は押し込めて後でどうにかするつもりだったみたいだけど、ここの店長やボーイ、それに客まで男だけ皆殺しにしたんだ」
「やっぱりアイツらそんなんだったのか」
 よく見るとロッカーの底が濡れている。サンガネのジーパンも。
「それで咄嗟にココに隠れたってわけだな。まるでステルスアクションの名作ゲームみたいじゃねえか」
「ああ、あれで覚えたんだ。蛇になった気分だよ」
「やってることはハルの方だけどな」
「君と火星に行くつもりはないよ。でも君、すごいや。一人で何人もやっつけちゃうなんて」
「奴等は徒党を組まなきゃ何にもできない。仲間を集めてイキってるだけさ」
「君には、仲間は居ないの?」
「仲間は居ない。僕はいつも一人だ」
「君も、オタクだったんだね」
「あん?」
「ボクだってずっと一人だった。この街で好きなものにだけ囲まれて、お店でのんびり過ごせたらそれでよかったんだ」
「今は違うのか」
「ああ……どんなに自分が変化を恐れて、望まなくても。ある日突然すべてがひっくり返ってしまうこともあるし、誰かに壊されてしまうかもしれない。悪意のある奴だけじゃない。自分の正義を信じて疑わないような奴らからも……誰からも何もされずに生きてゆくことなんて、出来なかったんだ」
「そうかもなあ。だからもう、誰に何をされても平気なように、メチャクチャ強くなるしかないのかもな」
「君はイイよ、強いんだから」
 
 わーわー言いながらも店の外に出ようとドアの近くまで歩きながら、團長に切られたマスコットを探す。僕の宝物。不用意に身に着けていたからいけなかった。今度からは懐に入れるか、飲み込んだっていい。だから出て来てくれ……。
「どうしたの?」
「ん、ああ。探し物だ」
「見つけにくいもの?」
「探すのをやめるまで見つからないかもな」
「見つからなかったらどうするのさ」
「見つかるまで探すんだ。死んでも」

 瓦礫の破片や砂、塵埃に塗れた床の上を這いずり回るようにして探す。時々、肉片や血だまりもある。こんなところで、人が探し物をしているというのに呑気に死んでやがるんじゃねえ、邪魔だな。
「君が殺したんじゃないか」
「えっ、なっ、どうして僕の考えてることがわかるんだ! 超能力者のカマキリか!?」
「全部、口に出して喋ってたよ。今」
 
 なあんだそうか。それは僕の悪い癖だ。
「で見つかったのかい?」
「いやーー、何処へ飛んでっちゃったんだろう……」
「落としたの?」
「いや、身に着けてたんだけど白塗りの團長にどっか飛ばされた」
「ああー、あいつ……」
「あークソッ。死んでからも鬱陶しい奴らめ……」

 ちりん。

「あっ!?」
「ねえ、もしかしてコレ?」
 鈴の音を聞いて振り向くと、サンガネが指先でそっと摘まんで持ち上げたマスコット。
「ソレだ! よく見つけてくれたなあ」
「はい、もう無くさないようにね」
「ありがとうよ。よし、これで差引ゼロだな」
「ボクを助けてくれたのとチャラってこと……?」
「そ。たまたま暴れてたらみんな死んで、サンガネは生き延びただけ、なんだけどな」
「釣り合うの、それ」
「僕はあぶくちゃんが死ぬほど好きなんだ。だからコレも僕の命だ。君がコレを拾ってくれたなら、君も僕の命の恩人じゃないか」
「そういうもんかなあ……」

 と、店のドアを出たところで階段の下に人だかりが出来ているのが見える。思い思いの薄汚れた衣装を直し、スカートや上着が少しずれたまま、さっき一斉に走り出していった女の子たちが往来を小走りに駆けてゆく。そして残されていたのは……。

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ダイナマイト・キッドです 写真は友人のクマさんと相撲を取る私 プロレス、格闘技、漫画、映画、ラジオ、特撮が好き 深夜の馬鹿力にも投稿中。たまーに読んでもらえてます   本名の佐野和哉名義でのデビュー作 「タクシー運転手のヨシダさん」 を含む宝島社文庫『廃墟の怖い話』 発売中です 普段はアルファポリス          https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/376432056 小説家になろう                   https://mypage.syosetu.com/912998/ などに投稿中 プロレス団体「大衆プロレス松山座」座長、松山勘十郎さんの 松山一族物語 も連載中です そのほかエッセイや小説、作詞のお仕事もお待ちしております kazuya18@hotmail.co.jp までお気軽にお問い合わせ下さいませ

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