#不思議系小説 第141回「粘膜サンシャイン35.(終)」

The Best Is Yet To Come

 一方で、さらにそのオーサカオールスターヤクザすら利用してのし上がろうとする者たちが現れた。それが独立オーサカ逸心会だった。荒廃し乱れに乱れた治安状況のなかで、しぶとく生き延びて稼ぎを得ていた小ズルイ弁護士や汚れ仕事専門の経営者たちを中心に結成されたこの政党は、要するにヤクザもんに治安維持やトラブルの解決を依頼しつつ、自分たちがそれらを手打ちにすることでマッチポンプを演じて来た連中だった。

 お得意様だったヤクザもんが為政者や、その近侍となったことで、自分たちも権力の座に近づき儲けようとした。ヤクザの御こぼれに与かるハイエナどもだ。それが、いつの間にか現状に飽き足らずして自らが為政者たらんと狼煙を上げた。

 表向きは地元オーサカで活動するアーティストを支援するための団体として立ち上げた基金から、演劇、バンド、ダンス、絵画にポエトリーリーディングなどで活動する連中に資金や活動場所、場合によっては武器すらも提供して文字通り活動を「支援」してきた。

 さらに、その「活動」の大義名分や仮想的を作り出して与えることで、より活発かつ円滑に「活動」を行わせ、そこで起こった揉め事には上位組織のヤクザからのアウトソーシングがなされる。この循環する大義と暴力のサイクルに、武器も人もどんどん投入された。
 
 地元オーサカを愛し、オーサカで生まれたアーティストやさかい、オーサカの街よう捨てん。初めは純粋に自らの信じた表現活動に邁進し、切磋琢磨を誓った自称アーティストたちも、一人また一人と堕落し湯水の如く与えられる資金と武器に気を良くして、自分の表現に理解を示さない奴等に片っ端から噛みついて「活動」を行い、アーティストとしての自我だけを肥大させていった。

 あのレトロドールやアウターヘイヴンに闖入した白塗り集団のような連中もその一部で、奴等は皆、独立オーサカ逸心会の息のかかった支援団体から資金や武器を受け取っていたのである。そうして自分たちが気に食わない現場、イケ好かないと思っている人々の元へ押しかけては身勝手な主張を繰り返し、場合によっては武力で威圧し暴行を働くことすらあった。もはやアーティストなどとは名ばかりの、れっきとしたテロリストであった。

 このように自己愛で凝り固まったアーティスト気取りに武器を与えて暴れさせることでトラブルを起こさせ、その解決に乗り出すことで利益を得るのに加え、近隣の治安を悪化させて住民を立ち退かせたうえで、気高い理想やぬくもりに満ちた社会を謳って再開発計画を発表。有無を言わさず移住させるための立ち退き先の住宅街や団地を造成し、また現地の再開発事業に携わる建設業者、リース会社、作業員の派遣元から派遣先の元請業者まで全てが独立オーサカ逸心会の傘下にある企業であるため、そこでも莫大な利益を貪っている。

 そして今、オールドメディアブームを形成し人気が高まったニッポンバシオタロードにも、逸心会の毒牙が伸びようとしている。あの白塗りは近年あちこちの復興しかかった商店街や繫華街に現れては武力をちらつかせ、近隣住民に危害を加えて回っていたらしい。

 この街も再開発計画が立てばアーティストどもの活動という名の否応なしの地上げが始まり、食い詰めたバンドマンからダンサー、ポエマー、アクターからヤクザもんまでが加わった、オールキャストの茶番劇が繰り広げられることになる……。

 サンガネの嘆きは続いていた。彼はこの街を愛し、オールドメディア文化を、残された機械や技術を愛し、そしてここで働く人々を愛していた。
「もう、おしまいなんだ……あいつらが来たってことは、もう……終わってしまうんだ……!」

「バカ野郎、まぁだ始まってもいねえよ!」
 この街が狙われているということは、いずれあぶくちゃんの店にも魔の手が伸びて、海から空から迫る逸心会を退けなくちゃならない。
 この街を、あの店を、文化を、あぶくちゃんの暮らしを、守らなくちゃ。
「サンガネ、マッドナゴヤに向かうのは、また今度だ」
「え?」
「このオーサカを、ココに芽生えて連綿と生きる文化や場所、そこで暮らす人々の生活……全て食い物にした罪深き害獣達の墓場にしてやる!」

粘膜サンシャイン 終。粘膜EL.DORADOにつづく

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