#不思議系小説 第134回「粘膜サンシャイン32.」

The Best Is Yet To Come

 團長がゼェゼェと息も絶え絶えに、しかし目玉だけは血走ったままコチラを睨んで、カタナを握り締めて震えている。
「お前、そんな重たいだけの鈍いもの振り回してたら、そら疲れるよ。習ったのはいいけど実際に切ったことないのか。でも、まあ、鈍くて切れないカタナにも、使い道は有るけどな」
 スっと影のように團長に近づいて、大拳頭を包むようにして手のひらを被せ、内側に向かって手首を極める。困惑と激痛に身をよじった團長の落っことしたカタナを奪うと、そのまま彼の白い横っ面を引っ叩く。

 頬骨と刀身のぶつかり合う、乾いて硬い音が響く。團長は気をつけ、の姿勢で横っ飛びして、崩れたテーブルの山に突っ込んでいった。
「な。こいつは所詮、飾りモンのカタナだ。でも見栄えのために重さだけはあるから、切るんじゃなく殴りゃいいのさ」
「あ、あっ、あう」
「さっきまでの勇ましい物言いはどうした? 僕を殺すんだろ、為政者や文化の敵とみなした連中のように。粉砕するんだろ、どうした」
 うつぶせに倒れた團長の首の付け根を踏みつけて、頭が動かないようにグッと体重をかける。
「さあ、そこで突っ立ってるお友達にサヨナラをしな」
「……ぃぃぃぃ!」
「そしてSay Hello to My Little Friend!! だ!」
 
 見た目だけは一丁前な鈍く重い模造品のカタナを振り上げ、團長の白い顔に目掛けて勢いよく振り下ろす。重たいだけあって重力と遠心力を持ったカタナが弧を描き、團長の首元からスパーンと綺麗に切り裂いた。
「なぁんだ、切れるじゃねえか。太公望は釣竿を選ばずってやつか」
 自分の腕前にご満悦の僕が次に目にしたのは、すっ飛んでいった團長の首が直撃して頭蓋骨にめり込んだ不幸な白塗りと、それを見て完全に人生を諦めた最後の一人だった。

「おーおー、一蓮托生ってのはこのことだな。団員の鑑だ」
「……!」
「そう怖がるなよ。お前は最後まで手出ししなかったな。ん? それとも、今から仇討ちと洒落込むか?」
 気の毒に涙と鼻水で顔をクシャクシャにした最後の白塗りが、千切れちゃうんじゃないかってぐらいに首をブンブン横振りする。
「そうか。それならそれでいいよ。ハナっから勝ち目なんか無いと思ってたんだろ」
(うんうん)
「で團長が熱くなっちゃって、みんな引くに引けなくなってて、止めるにも止められなくって」
(うん、うん)
「結果みんな死んじまった。と……良かったな。お前、もうこんなの懲り懲りだろ。悪いこた言わないからサッサと帰りな」
「あ、あの……」
「ん?」
「た、立て……た、立てないんでずう」
 腰が抜けてしまったらしい。仕方ないな。

「ほらよ、どっこいせ」
 手を貸して引っ張り上げて立たせる。なるほど確かに危害を加えて来る様子はない。素直でいい奴だ。
「お前いい奴だな。お名前は?」
「い、いち、苺郎(イチロー)です」
「随分と可愛い名前だな、じゃあまたな! 苺郎」
 ワタワタと無様な姿を隠しもせずに走って行く苺郎を見送って、改めて酷い有様の店内を見渡す。
(そういえばサンガネは結局、ドコ行ったのかな)
 彼の顔を思い出したのと同時に、ガタリと大きな音がした。何か薄いブリキ板のようなものがたわんだ時の音に似ている。

 店の奥に控室と思しき小部屋がある。ブレーカーを破壊されて真っ暗だ。
「まだ誰かいるのか……?」
 ヒョイ、と顔をのぞかせようとした瞬間に大勢の悲鳴が一斉にこだました。
 そして大勢の女の子たちが、思い思いの衣装を汚したまま駆け出していった。どうやらこの部屋に詰め込まれていたらしい。まあ、無事でよかった。礼ぐらい言ってくれてもいいだろうに……よほど怖かったんだろうな。
 そして残るは、部屋の奥に鎮座する古ぼけたスチールロッカーだけだ。
「さーて鬼が出るか蛇が出るか」
 ゆっくりとロッカーの前に立ち、右手をそーっと伸ばしてゆく。やがて指先が冷たい取っ手に触れる。トリガーのようになった取っ手を指の腹で押下し、手前に向かって勢いよく引いた。

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ダイナマイト・キッドです 写真は友人のクマさんと相撲を取る私 プロレス、格闘技、漫画、映画、ラジオ、特撮が好き 深夜の馬鹿力にも投稿中。たまーに読んでもらえてます   本名の佐野和哉名義でのデビュー作 「タクシー運転手のヨシダさん」 を含む宝島社文庫『廃墟の怖い話』 発売中です 普段はアルファポリス          https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/376432056 小説家になろう                   https://mypage.syosetu.com/912998/ などに投稿中 プロレス団体「大衆プロレス松山座」座長、松山勘十郎さんの 松山一族物語 も連載中です そのほかエッセイや小説、作詞のお仕事もお待ちしております kazuya18@hotmail.co.jp までお気軽にお問い合わせ下さいませ

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