#不思議系小説 第157回「粘膜EL.DORADO 6.」

 奴の箱型キャビンの屋根部分にはレドームが搭載され、暗視、透視、凝視、霊視と凡そ見るということにかけては万能を誇っている。数キロ先でも瓦礫の山に埋もれた標的を見つけて、それを的確に踏みつぶしたり、レドームの隣に装備した機関銃やレーザー砲で狙い撃ちにしたりすることも可能だ。つくづく恐ろしいヤツだが、何が一番恐ろしいかと言えばコイツは量産型で、アチコチに出現しては無慈悲な電撃作戦を徹底的に遂行し容赦ない粉砕を行っているということだろう。

──ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!
 生体部品と重金属含有オイルによって駆動する機械部品の集合体が軋み合いこすれ合い、まるで南港が咆哮しているかのような、地獄の底からハラワタを揺さぶるような低い低い不気味な音を立てる。
 そして巨木のような脚を振り上げ、足元に散らばった橋脚の残骸をしなやかな身のこなしで蹴り飛ばし、残った雑居ビルの2階と3階に叩き込む。ビルの中から転げるように逃げて来た人々が、飛び散る瓦礫に圧し潰されて瞬く間に殺されて、その死骸をさらに踏みつけてすり潰す。

 こんな科学の粋を集めた怪物が暴れ回っていても、それを阻止して破壊しようと試みる者は居ない。何故なら、そもそも警察も消防も国防に至るまで、殆どの人員がパーソナルセンターに登録した派遣労働者であり、その上に立つ管理職もごく一部の官僚や幕僚を除いて労働者派遣事業からの天下りや、その強い支持を受けて当選した人間であることがひとつ。
 それに加え、これもまたO.C.P(オーサカ・シティ・プレジデント)やオーサカ一心会、その上に居て復興権益を独占しようとするパーソナルセンターにとっては歓迎すべき必要な破壊であり、その破壊と復興のアウトソーシングを発注しているロクデナシ屋さんたちを裏で操っているのもまた一心会やO.C.Pなのだ。

 そしてあのAIには、奴等に抵抗する連中……つまりオーサカ文化とぬくもりのある生活、やさしい未来を築くための政治を邪魔する旧態依然に固執した蛮族仇敵の生体データがほぼ完ぺきに網羅されている。要するにボクたちであり、さっきのビルに入居しているバーなのかサロンなのか……あそこに集っていた人々でもあった。
 そうやって他罰的な行動でボクたちを威嚇し、ややもすれば租界の外側におびき出して、そこで始末しようと送り込まれたものだろう。
 わかりきっているだけに、わかっていても手が出せない。租界の中まで大規模な襲撃を受けることはないが、出て行けばボクたちも危ない……悔しいが、非力なボクたちでは、どうにも出来ない。

 それにしてもO.C.Pや一心会め。自分たちは手も指も面の皮さえも汚さず、チンピラや捨て駒の鉄砲玉のみならず薄気味の悪い生き人形までコキ使ってでも始末したいだなんて。光栄だね、あぶくちゃん。
「ナニひとりでブツクサ言ってるのよサンガネ!」
「あぶくちゃん、危ない! 来ちゃダメだ」
「マノ……!」
「サンガネ! あぶくちゃんを連れて逃げろ!!」
「でも」
「デモもストも全国労働者安全衛生推進月間準備週間労働災害撲滅キャンペーンもあるか! いいから逃げろ!」

 その時。南港の頭上に据え付けられたレーダーがボクたちの姿を捉えた。
 ニッポンバシオタロードの租界で一心会に歯向かうべく頑張っているボクと、そしてもうひとり。あぶくちゃんの姿を。

 ブガア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛!!

 南港が雄たけびを上げて飛び上がり、ボクたちの眼前10メートルほどのところに土煙をあげて着地した。近くに居ると生体部品がニュルリニュルリとにじるように動く音や、まるでジーっと沢山のセミが鳴いているかのような機械の動作音が聞こえて来て、それに加え歩くだけで地響きがする。威圧的な高さを計算して設計されたという南港の四角い顔がボクたちを見下ろし、機銃を向けて標準を合わせるカチカチという音も聞こえている。
 まずい、撃たれる……!

 身を隠すための瓦礫の山だとか建物には事欠かないが、よくて蜂の巣。そうでなくとも逃げ込んだビルごと粉砕されるのがオチだ……そのとき。ボクとマノは不意に視線を合わせた。そしてボクは 何か を理解した。
「あぶくちゃん、こっち!」
 ボクは咄嗟に彼女の手を引いて、近くにあったビルの裏手から勝手口に飛び込んだ。
「サンガネーー!」
 ビルの外でマノが叫んでいる。低くて重いけどよく通る、良い声だ。
「あぶくちゃん、頼んだぞ!」

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