再び唸りを挙げて立ち上がり、マノに向かってレーザー光線とバルカン砲の一斉射撃を繰り出す巽参轟。マノはそれをバック転と横っ飛びでかわすが、その先には火炎放射が待っている。
「ハーッハッハッハッハァ! そうだ巽参轟、そのまま焼き払えぃ!!」
業火の中に閉じ込められたマノの眼前で、今まさにミロクちゃんがいたぶられようとしている。
「我々は何(ぬぁに)も市民を皆殺しにしたいわけでは無(ぬぁ)い! だが、文化的反逆思想の持ち主とみれば話は別だぁ! 美しく豊かで限りない未来に向かって歩みを進めるオーサカシティに、退廃文化は無用である!!」
「……」
「それを、今、ここで証明するぅ!」
「お前らの言う美しく豊かで限りない未来ってのは、女の子を集団でイジメないと掴めないもんなのか?」
「マノ!」
燃え上がる業火と渦巻く爆炎の中から、全身に怒りの炎をみなぎらせたマノがぬっと姿を現した。
「貴様! まだ我々に歯向かうというのか!?」
「ハム買うもソーセージの製造直売もあるか、自分らの正義を大義にすり替えた挙句、力の弱い人間を選んで殴りまわすことに、なんの美しさがある!? どんな未来がある!?」
「ぬぅ……!」
「誰のカネと指図でこんな真似してやがるか知らないが、それも今日限り!!」
「ぶっ殺す! お前ら全員、ぶっ殺す!! 地獄に落ちても勘弁ならねえ!」
「や、やれえぃ! 巽参轟!!」
マノと巽参轟が同時に動き出した。丸っこい巨体からありったけの弾薬をぶっ放しながら動きをけん制しつつ、火炎放射で足を止めてレーザー光線で貫く。その作戦は功を奏したかのように見えた。だがマノの怒りは、それらの攻撃によるダメージを遥かに凌駕する熱量で彼の中に充満していた。
弾丸が炸裂しようが、火炎にその身を焦がされようが、七色のレーザー光線が束になって命中しようが、もはや彼を止めることは出来なかった。
「ば、バカな!?」
「何がブリッヂクレインだ、タコ!!」
怒りに満ちた拳が真っ赤に光って、巽参轟の丸っこい巨体から突き出した三角錐型の顔面に向かって真っすぐ撃ち込まれていった。樹脂と金属と硝子の砕ける音がして、巽参轟の動きが停まった。
「くそぅ! まだだ!!」
総統の声に乗って巽参轟はがるんがるんぶしゅうと身震いをして、短い脚で前進をし始めた。まだ生きている両手と胴体の砲台からナパーム弾を乱れ打ちにし、巨体を利した体当たりも繰り出した。しかし、今度はその体をがっしりと受け止められ、そのまま逆さまにして持ち上げられようとしていた。
「こんの……野郎!!」
ついにマノの頭上まで担ぎ上げられた巽参轟が悲鳴のような音を立てて軋んだ。が、その眼前には相当の腕のなかで顔面に刃物を突き付けられ、その濡れたように光る切っ先が白くきめ細かな素肌に食い込む寸前のミロクちゃんが居た。
「貴様ァ! そのまま大人しくしておらんとぉ、この女の顔がどうなっても知らんぞぉ!?」
散々に打たれたミロクちゃんは気絶寸前だったが、まだその青白い頬と血の気の失せた唇が僅かに震えていた。その姿を見たマノが巽参轟を担ぎ上げたまま動きを止める。
「そうだ、それでいい。オイ、あそこで伸びてる木偶の坊を叩き起こして来い!」
総統が顎で指した先には、マノと戦って意識を失った舎利寺が倒れていた。
「早く起きんか、馬鹿者! 貴様それでも文化粛清軍の一員か!?」
総統が怒鳴り、構成員が舎利寺の巨体を小突きながら揺り起こす。
「むぅ、む……総統……?」
「いつまで寝ておるつもりだ! こっちへ来て早くこの女を締め上げろぅ!」
「な、な……」
まだ少し虚ろなままの舎利寺の視界に広がっているのは、平和だった広場の青空市場が炎と瓦礫に包まれた地獄絵図。その真っただ中で巽参轟を逆さに抱えた深紅の巨人と、女性を人質に取って自らを罵倒する小男を見比べた。
これまでの自分だったら、否も応も無しに、あの小男の言う通りにしていただろう。脱兎の如く飛び出して、あの女の背骨でも首の骨でも締め上げていた。だが、この有様はどうだ? これが自分の信じたオーサカシティの健全なる文化の守護、そして不健全な文化を粛正し未来を正しいものへと導くことなのか?
そもそも本当に正しいのは、果たしてどっちなんだ?


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