#不思議系小説 第93回「粘膜サンシャイン5.」
If I Could Fly 「えっ、オフクロ!? おとう、おーい! どうしたんだよもう」 そういえば、もう一人この家には住人が居たんだっけ。彼女の弟で、あの夫婦の息子で、なんと言えばいいのか使えない深海魚にジャガイモを…
ハイパーグラウンドに ようこそ
If I Could Fly 「えっ、オフクロ!? おとう、おーい! どうしたんだよもう」 そういえば、もう一人この家には住人が居たんだっけ。彼女の弟で、あの夫婦の息子で、なんと言えばいいのか使えない深海魚にジャガイモを…
泣きたくなるほど、ノスタルジックな夏でした 「死んだよ、二人とも崖から真っ逆さまだった」「そう……やっと二人になれるのね」 日焼けした素肌を赤く染めながら、僕の胸元に顔を寄せた。白髪交じりの頭からすえたような臭いが立…
泣きたくなるほど、ノスタルジックな夏でした 起き上がり何処かへ逃げ出そうとのけぞり手足を突っ張る彼女の喉元に、折り曲げた肘に体重を乗せて押し付け布団の上に押し戻す。ぐべ、と声にもならない音を出し、唇の端から唾液を泡立た…
泣きたくなるほど、ノスタルジックな夏でした。 愛知県田原市の、三河湾に面した県道から山側に逸れて細い道を辿って辿って。読み方のよくわからない古い地名の付いた場所。ギラつく陽射しが舗装もされてない土くれの道路に降り注ぎ…
壁代わりのガラス窓は割れ放題、外から見る限り椅子も机も壊れ放題、よくわからない文字は擦れ放題消え放題。ただでさえ読めるはずもない文字が読ませる気もなくなったようで、それが空港の名前だと言えばそう見えるし、スポメニックと…
長い、長い鉄橋を渡り続けるサンセット倫理。タテヨコナナメに組み立てられた鉄骨が夕陽に溶けて影になる。夕陽と影のアラベスクが、窓越しに高速で通過する。僕の頭めがけて飛んでくる鉄骨の影、僕の手の中にはドアノブがひとつ。アラ…
ガチャ、と狭く細長いドアを開ける。輪をかけて狭い廊下に薄暗い照明がぽつりぽつりと並び、窓の外は夕暮れの無人駅。ゴウンゴウンと何かが駆動する音や、カタコンカタコンいうポンプの音が混じり合って響くが、車内に人の気配は無く意…
君は君を閉じ込める奴の気が知れないまま、遥かな世界へ消えてった。それでいい、これでよかったんだ、僕は街の灯を見つめて何度も何度も心に刻み込んだ。これでよかったんだ、と刻まれた瘡蓋が乾いて落ちるころには、すっかり忘れてし…
寝台特急サンセット倫理。真夜中に出発し夕暮れ時を目指して旅に出る列車。抱えきれない憂鬱と、こなしきれない現実と、堪えきれない嗚咽から遠く遠く離れてしまうための列車。悲しいくらい澄んだ目をして、激しい痛みに吐き気を催して…
線路は緩やかで大きなカーブを描いて、西へ西へと伸びてゆく。海岸線の波打ち際から吹き付ける風に乗って飛沫が舞い上がり、月明かりに照らされて青白く光る。しずくの中に秘められたミネラルと砂粒が極小のプリズムになって一瞬の煌め…
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