無限の船に積み込まれたのは
孤独と空虚を凝縮した白い白い樹脂が
ぎっちり詰まったコンテナ
巨大クレーンが次々に吊り上げては降ろしてくるのを必死に捌いて夕暮れ
風力発電機の赤黒く脈打つプロペラが嗤ってら
ストラドルキャリアの鎖ひとつひとつが
樹脂に塗れて空を見上げる俺を見て
なんて言ってるか当ててご覧
驟雨の中を進むワゴン車の中は
きついタバコの煙が充満していた
埠頭を横切る大きな橋を渡って
巨大な船の中へ
積み荷は荒唐無稽なものがいい
今日は樹脂でもクルマでもスターチでもない
船内の水銀灯をギラリと反射する銀色の多面体
荒唐無稽な積み荷がとてもいい
迷いを振り切り後悔を打ち消すには
体に負荷をかけて汗をかくほうがいい
心に負荷をかける方が初めはラクだし無料だけど
いつか取り返しがつかなくなるまで止まらないし
取り返しがつかなくなったらもう先がない
堂々巡りで負荷だけが重くなる
体にかける負荷が重くなればその分鍛えられるが
潰れた魂には義足も付けられない
さざ波のようなノイズ
ノイズのようなさざ波
自分で自分が進むべき道を
断ち切ることばかりアタマが回り
進むべき道も逃げ道さえも
片っ端から塞いで回る
答えが幾つもある迷路を
俯きながら散々に塗り潰して
ご満悦
憂鬱を見つけ出して吊り上げるクレーンと
溜め息を受け止めて回り出す風力発電機と
不安と不満と死にたいとラクしたいを満載した
ジェットコースターと観覧車
覚束ないフリック入力で紡ぎ出す世界を
細切れに保存する
冷たい指先が空回りするのを
嘲笑う予測変換
ろくに漢字や言い回しも出てこないで
ろくな漢字と言い回しを並べもしないで
検索して漸く望んだフレーズを映し出すころには
書きたいことなど何処かへ消えてしまう
無数のゼロとイチ
その連なりを言葉に変えて
その言葉を一つ一つ並べて
世界や秩序を作り出す
誰に望まれるでも、乞われるでもなく書き始めた世界が
膨張し、今も脈打ち拡大を続ける
生きづらくて息もし辛いような生活から逃れるために
自宅という硬質の殻に閉じこもって作り出した世界が
少しずつ自分の生活に染み出して、仕事も、暮らしも、精神をも
侵食して削り取ってゆく
舌打ちをこらえる毎日
皮肉も嫌味もこぼす気力すらなく
争わずに過ごしているのは
分かり合わずに過ごしているだけ
岸壁には今日も白と深い青のツートンで塗られた巨大な神経凝固塊船が着岸し、どんがらどんがらと騒がしい音を立てながらランプウェイを降ろしていた。二つ折れになったランプウェイに葉脈のごとく広がる循環濃脂管が、どんよりと暗い昼間の雨空の下でどくりどくりと静かに蠢いている。
ワゴン車に乗ったまま船内へ。生温い空気と薄黄色の蒸気が混じりあった濃いピンクと明るいパープルの中間色をした広大な空間に固定杭とワイヤロープを食いこまされて並ぶ銀色の多面体
色こそ二十世紀後期型ジンルイと異なるものの、質感といい匂いといい機能といい、この船の床は皮膚そのものだった。そこに直接固定用のプラスパーパイルが打ち込まれて、流れ出した血液とおぼしき体液が凝固し傷口を塞いでいることで固く留められているようだ。生理機能も利用した製品の運搬および管理については作業ご安全にファイル二百十一項の三章十六節に明記してある通り、より確実に安全性を高めるには必要な措置とある
誰かの流す血や、かける手間を惜しまずに安全に配慮する
聞こえはいいが、上層部が現場の連中にやらせているだけなのは何をしても結局同じだ
ジャンピングスロープで船内を一足跳びに駆け上がりアッパーデッキへ
船の天井を突き破って聳え立つ老人回想追憶樹の雑木林
皮膚そのものの船床にも太い根が張り巡らされ、内部で筋肉や血管が断裂を起こしているらしく所々黒ずんだり、血液が漏洩したりしているのが見受けられた
ワゴン車を降りて、ぐにゅりと皮膚を踏みしめる。歩くたびにそこいらじゅうの毛穴から先端部が酸化した残存皮脂塊が顔を出して、オキシジェンに触れることで独特の臭気を放つ
さあ、作業を始めよう
ゼロ災で行こう、ヨシ!


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