Raining Blood
「この僕ひとり片付けるために、よくもこんなに暇な連中かき集めたね。ありがとうよ。一人も生きて帰さねえ」
僕は吸い込んだ気体が体の隅々に行き渡るような深い深い呼吸をして、全身の呼気を残らず吐き出すように深い深い呼吸をした。そしてもう一度吸い込んだ、路地と酒と吐瀉物と、血反吐と炎の匂いが沁みついて渦巻く空気をオヘソのちょい下あたりに集めてギュっと凝縮する。
意識の中で質量を持ち始めた豆粒ほどの空気の塊が、やがてこれを繰り返すことで重さと大きさを増してゆく。そのイメージを膨らませるのと同時に、僕の全身の筋肉もミシミシと音を立てて大きく、分厚く、熱量を増してゆく。
最後の息を吐ききって、そして吸い込んだ息を触媒にして空気の塊をパチンと弾くように飛び上がる。地面にズシンと足をつくと、僕の黒い髪の毛は真っ赤に色づき、全身を巡る血流にもエネルギーが満ち満ちている。爪先から脳天に向かってスゥーっと冷たいものが昇っていって、目の前が何でも眩しく明るく美しく見える。
最高に気分がいい。
ぶっ殺す。コイツらみんな、ぶっ殺す。
「さあーどいつからだ!?」
死にたい奴からかかって来い! と叫びながら、僕は我慢出来ずに近くに居た例のヒョロ長を取っ捕まえて引きずり倒した。さっき蹴った脚を庇うように尻込みをするが、許さず折れた足を掴んで、折れてない方の足は左足で踏んづけて股裂きのカッコウにする。
往来で、仁王立ちで、男が男を大股開きにして見栄を切っている、の図は、あまり気持ちのいいものではないな。相手が女の子でも同じだけど。
「こんな足、もう使えないな。捨てちゃえ」
僕は折れた方の足の足首をひねって、筋が強張ったところで思いっきり押し込んで股関節をゴキっと外した。
「ああああああああ! ああーーっ!!」
ヒョロ長の悲鳴をBGMに、そのままさらに足を押し込む。下敷きにした足の太もも辺りを踵で強く踏みつけて内股の筋も圧し切る。さらに圧し込んでゆくと、膝の中でグチャッと濁った音がして、急に糸が切れたように膝があらぬ方向に曲がった。
「ぎゃああ!」
どうも完全に膝の関節がぶっ壊れて、皮膚の中で軟骨や切れた筋なんかが泳いでいるだけになったような。いいぞ。
「膝ぐらいじゃ甘いよ」
僕は構わずそのまま砕けた膝を抱え上げるようにして、最後の最後に思いっきり体重を乗せて圧し掛かった。ベキベキの後で、ブチュブチュブチッ! と音がして、僕の体に鮮血が吹き上がって真っ赤に染まった。
ヒョロ長の右足が股関節から千切れて、腰に向かって大きく引き裂けていた。まだギリギリ、胴体とは繋がっているが……腰の皮一枚、というやつか。
あまりのショックに顔面蒼白で痙攣するヒョロ長も燃え上がるガラクタの山に放り込む。悲鳴を上げてのたうち回るが、やはりオイル塗れの廃材はよく滑りよく燃えるとあって、あっという間に火炎ゴミのなかに飲み込まれて動かなくなった。
「どうした? お前らは死なないのか」
僕は後ずさりしようとしたチンピラ……デニムのベスト、モヒカンヘアーという古風な男の首根っこを捕まえて喉笛を握り潰すと、そのまま釣り上げて振り向きざまに炎の中に投げ込んだ。人間焚き火デスマッチは佳境を迎えつつある。どんどん燃やそう。
誰のためだか数に任せて集まった烏合の衆が、青ざめて立ったまま震えていた。
今まで小競り合いの端っこに加わったことや、誰かの勝ち馬に乗った時ぐらいが武勇伝のピークだったんであって、急にオタロードのど真ん中で目ん玉飛び出るようなデスマッチが始まったら、まあこんなもんだろう。
「そっちが来ないなら一つだけ教えてやる。この姿を見て生きて帰った奴は、今日までひとりも居ねえんだ」
運悪く僕の目の前でガタガタ震えていたパンチパーマに細長いサングラス、紫色のスーツというこれまたレトロブームの中心地らしいレトロヤクザ風の男を捕まえると、眉間からキンタマの皺の縫い目まで一刀両断に引き裂いた。指先に集中させたエネルギーを素早く貫通させつつ圧し切る技で、
「あがばわ」
縦に真っ二つになったレトロヤクザから吹き上がる真っ赤な血しぶきで紅に染まった僕の姿は気高い鶴の様に美しい。
「血の雨の中に君臨する王様、Raining Bloodだ。気分いいね」
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