#不思議系小説 第182回「粘膜EL.DORADO 19.」

「軍服男の次はジャパニーズ・ニンジャのお出ましか。ワールドヒーローズだな、まるで」
 そのゲームならボクも遊んだことがある。
「マノ、そのゲームならポンバシの店にあるよ」
「ホワッホッホ! 今度そこ連れてくザマス!」
 マノがマッドマンのポーズをとって、カン高い声と口調で僕に返事をする。

「それ、お話も出来たんだ」
「へえー便利ねえ」
 後ろでミロクちゃんとあぶくちゃんが呑気に話している。
「そりゃあボクの発明品だからね」
「部品はワシらの店で買(こ)うたけどな」
「そやそや、あのジャイロセンサーはウチのじゃな」
「小型ローターとバッテリーはワテんとこでんがな」
 いい品物いい買い物は馴染みのお店で、ってね。

「オイ、デカめのハゲタコ海坊主!」
 ハゲと坊主では表現として重複じゃないのかなあ。
「舎利寺だかサノバビッチだか知らないが、ココに居る連中みんなまとめてかかって来たってワケ無いぞ。お前、僕とサシで勝負する気ねえのか!」
 名指しで挑発された舎利寺が怒り狂っているのを嚙み殺して、ずいと一歩前進した。それが意思表示と受け取ったマノは上機嫌になって続ける。
「よぉし、デカいだけの事ァ有るな。でもさっきみたいには行かないぞ!」

 来い!
 と言いながら、また自分から走って行くマノ。舎利寺も負けじと殆ど同じタイミングで猛突進する。姿勢を低くして、地面スレスレからマノの腰に目掛けてスピアータックルを仕掛けた。
 お互いの肉と骨がぶつかり合う激しい音が地べたを揺るがすように響く。舎利寺のタックルを受け止めたマノが延髄に肘鉄を落とす。が、そのまま二発、三発と貰った舎利寺が平気な顔をして体を起こして殴りかかる。
 大ぶりの右をマノが交わすと、すかさず脇腹目掛けた左のフックが素早く突き刺さる。横三枚という急所を的確に狙い撃つ舎利寺は意外とパワーだけのチンピラでは無いようだ。
 頭の下がったマノのアゴを狙った右フック、さらに巨体で圧力をかけながら前進しつつ首を抱え込んで鳩尾に左右の膝を連続で叩き込む。流石に直撃は免れているものの、猛烈なパワーで広場の隅へと追い込まれてゆく。
 やがて円形の広場を囲む金網にマノの背中が触れるまで押し込まれ、なおも舎利寺の猛攻は止まず……ボクたちはタブレットを握り締めるようにしてこの戦いを見守っていることしか出来なかった。店の人たちやお客さん、ミロクちゃんもハラハラしながら画面を食い入るように見つめている。と、そこへ──

「ちょっとマノ! そんなのに負けちゃってどうするのよ!! こないだの強さはどうしたの!?」

 怒声一発。あぶくちゃんの甲高い叫び声が重苦しい空気を切り裂いてマノの耳に突き刺さった。
「O.K!!」
 その瞬間、目にもとまらぬ素早さでマノの両手が舎利寺の両耳をそれぞれ強く掴んだ。そして両手を引き寄せると同時に勢いよく頭を突き出し、それが舎利寺の鼻骨に食い込んで粉々に粉砕した。

「ごぶぼぉ……!」
 後ずさる舎利寺が怒りに満ちた眼でマノを睨むが、当のマノはお構いなしと言わんばかりに金網に向かって飛びつき、そのまま跳ね返るようにして体を反転させながら舎利寺の延髄を蹴り込んだ。
 ごすっ、と、どすっ、の混じった鈍い音がして、流石の舎利寺も膝をついた。そこへすかさずマノが走り込み、舎利寺の膝を踏み台にして自らの膝を顔面に叩き込む。深手を負ったところへ追い打ちを喰らった舎利寺が、遂に堪らず仰臥して広場の円い天を仰いだ。
 マノは着地を決めるとカマボコ板のカメラに向かって「イーーヤッ!」とポーズを取ってご機嫌だ。

 ゆっくりと立ち上がる舎利寺がマノを見つめる。そんな舎利寺を見つめるマノ。
 死体とふたりと烏合の衆。
 方や鼻を潰され、びゅうびゅうぶはぶはと血の混じった荒い吐息を漏らしている。
 方やアバラの痛みも癒えたのか落ち着いている。

「舎利寺! 貴様その程度か! 殺せ、潰せ!!」
「ぞ、総統(ぞうどぉ)ぉ……押忍」
 自分は安全なところで引っ込んだまま、拡声器で小男の総統が怒鳴る。
「……なあ。お前、ついてく男は選べよ」
「黙れぃ!」
「お前と喋ってねえんだよ、総統さんよ。なんならお前が出て来たっていいんだぞ?」

 マノに睨まれた総統がスゴスゴと後ずさり、舎利寺が腹を括ったかのように深く吸い込んだ息をゆっくり吐いた。
「大した忠誠心だな。その根性、無駄にするのは惜しいぜ」
 舎利寺は何も言わず、しゅうしゅうと吐息だけを繰り返す。
 その舎利寺の巨体越しに、小男と烏合の衆が何やら蠢いているのが見えた。コイツを置いて逃げるつもりか……?
(だとしたら先ず、あいつらから殺そう)
 
 そう思ったマノの眼前に舎利寺が居た。速いッ……!!

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