59.

「しっかりやるんじゃぞー!」
「さあ姫、早く!!」
 クリスとアマタノフカシサザレヒメを乗せたジェミニの片割れが飛び立ったのを見届けて、マノは最後の仕上げとばかり、魔王のほうへ向き直って構えた。
「行くぞぉ……クラーケンだか家系ラーメンだか知らねえが、幾らデカくたって所詮イカじゃねえか!!」
 これまで自分に対してこれほどまでの抵抗を受けたことがなかったのか、クラーケンは半ば戦意を喪失したようにじたばたと触手を動かしている。
「これでも、喰らえ!!」
 マノが仁王立ちしたまま足元から天にかざした両手の指先まで行き渡るように漲る力を集めてゆく。空気がパチパチと引き攣って、彼を中心に電気を帯びてゆく。
「God Of Thunder!!」
 叫びと共に突如として雷鳴が轟き、湧き上がる黒煙と炎を切り裂き、幾つもの稲妻が青白い光を放ちながらオーサカ湾に放たれた。その猛烈な雷撃を全身で浴びたクラーケンは白煙を上げて苦しみ、ぶよぶよとした目玉の下四分の一が、ばつん! と嫌な音を立てて弾け飛んだ。そこからも白煙が上がって異臭を放っている。

「クリス大佐!」
「さめちゃーん!」
 出迎えたボクたちやクリス大佐の部下を掻い潜ったマトがツヤツヤのおかっぱキノコ頭をふわふわ揺らして、司令室に戻ってきたサメちゃんに駆け寄った。
「ぼん! ぼんや……サメちゃんじゃよ」
「心配をかけた……あとは、アイツに任せよう!」
「ああっ、マノが拳を握った!」

「行くぞーーっ!!」
 マノが左拳を力強く握り締めながら瀕死のクラーケンに近づいてゆく。もはや波間を漂う巨大な浮袋のようになった哀れな魔王を岸壁に引きずり上げると、再び両肩に担ぎあげて両足をしっかり肩幅よりやや広く開き、左手で長い触手をぐるぐると巻き込むようにまとめて掴んだ。右手は胴体から頭の辺りをしっかりと固定し、いびつな十字架のような形をとった。
「むっ、あれは……!」
「クリス大佐、知っているんですか」
「うむ。奴が最も得意とする技の一つだ」

 いま思えば、この時点でクリス大佐は腹を括っていたような気がする。
 ボクたちがマノの活躍に一喜一憂し、遂に肩に担いだクラーケンのテンペラを地面に向かって真っ逆さまに突き刺すかの如く垂直落下させた時には大歓声を上げていた一方で、画面を見つめるクリス大佐の目つきは鋭さを増していた。

 岸壁に叩きつけられ、内臓や潰れた目玉をぶちまけたままクラーケンは死んだ。最後に助けを求めるように触腕を弱弱しく伸ばそうとしたが、最早そんな余力すら残っておらず……ひびわれて崩れかけた地面にぱたりと横たわると、そのままぐずぐずと溶け始め、暫くのちには泡と塵になって風の中に散っていった。

「やった……やったあ!」
「やっぱり強いわねえ」
「……」
「クリス大佐、マノは」
「相変わらずのようだな。全く無茶をする」
「ふふん。儂が居(お)らなんだら危なかったじゃろう」
「無茶をしたのは、お前もだぞ。知らなかったとは言え……マノが戻ったら礼を言うんだな、アマタノフカシサザレヒメ」
「……」
「あっ!」
 司令部のドアが音も無く開くと、当のマノが立っていた。その腕の中に青白い顔をして横たわる舎利寺を抱いて。
「舎利寺さん……!!」
「みんな、ミロクちゃんに彼のこと、切り出せないでカラ騒ぎしてたろ」
「マノ」
「大丈夫、気を失っているだけだ。とことん丈夫なヤツだよ」
「マノ……相変わらず大したヤツだよ」
「クリス」
「私の目に狂いはなかった。お前こそ、このオーサカを救うかも知れんな」

 クリス大佐の思いもよらぬひとことに、ボクたちだけではなく司令室に詰めていたUWTBの幹部や隊員たちも驚いた。
「大佐、今なんと……!」
「聞いての通りだ。……諸君だって気付いていた筈だ。この一大事にオーサカシティやO.C.Pとやらから、何か援軍はあったか、救援はあったか、カタチばかりの激励すら無かったではないか!」
「……」
「そればかりか、見ろ!」
 クリス大佐がモニターに映し出したのはメールに添付された一枚の書面だった。
「これがオーサカシティの、いやO.C.P谷町スリーナインからの答えだ!!」

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ダイナマイト・キッドです 写真は友人のクマさんと相撲を取る私 プロレス、格闘技、漫画、映画、ラジオ、特撮が好き 深夜の馬鹿力にも投稿中。たまーに読んでもらえてます   本名の佐野和哉名義でのデビュー作 「タクシー運転手のヨシダさん」 を含む宝島社文庫『廃墟の怖い話』 発売中です 普段はアルファポリス          https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/376432056 小説家になろう                   https://mypage.syosetu.com/912998/ などに投稿中 プロレス団体「大衆プロレス松山座」座長、松山勘十郎さんの 松山一族物語 も連載中です そのほかエッセイや小説、作詞のお仕事もお待ちしております kazuya18@hotmail.co.jp までお気軽にお問い合わせ下さいませ

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