「マノ……!」
「サンガネ。あのロボット、どう思う?」
「どう、って……正直、物凄く強そうだし、とんでもない科学力の塊だね。武装や合体要素だけじゃない。細かいところにまで未知の科学が詰め込まれてる。あんな巨大な機械が自由自在に動かせる、動き回れるなんて信じられないよ」
「そうか」
「あっ、……ごめん」
あまりのロボットを見て、つい熱くなってしまったボクにマノがにっこりと微笑みかけた。
「僕もそう思う。あれは、とんでもなく強いな」
「全くその通りだね」
「当たり前だろう、僕の師匠だ」
「マノ……」
「間違いなく宇宙イチ強い。だから、僕は行かなきゃ」
「マノ!」
「マノさん!」
「マノや……!」
「あぶくちゃん、ミロクちゃん、サメちゃん。みんなを頼む!」
「ほっほ。儂にお任せあれじゃ」
サメちゃんの請け合いを聞いて、もう一度にっこり笑ったマノが司令室の窓に向かって走り出し、ガラスの破片と突風の中へと飛び立っていった。
「さて。もうこんな街に飼われとうない。思う存分、暴れ回ってもらうとしようかの」
「へ? ちょっと、人魚のお姫様」
「あぶくと申したか。そちも儂の力、よっく見るがよい!」
言い終わらないうちにサメちゃんの額と胸元の宝玉がエメラルド色の光を放ち始めた。
「まんじゅかんじゅまもりのいそらのあずみのあまた……!」
目の前には紺碧の海、何処までも続く大海原が広がっている。波は穏やか、真っ白い雲が沸き立つ空と海の境目は曖昧で、潮騒が四方八方から寄せては返す。
「こ、これは一体!?」
「おお、アマタノフカシサザレヒメ様……このイソガイ、よもや命あるうちに再び見ることになりましょうとは。何百年ぶりで御座いましょう。まもりのいそら、は……」
「ほっほ。これで安心じゃて」
「わーーうみーー!」
(しゅごいぢょー!)
「すごいですひん、本当の海ですひん!?」
「無論じゃ。この辺り一帯は今、外界と隔離された海の結界に包まれておる。海は全てを呑み込み、そして無に帰す。どれだけ暴れても火を噴いても、それが外に漏れることもない。外から邪魔をされることもない。まっこと男がいつまでもワガママな子供で居られる場所は、母なる海の懐であろうて」
海の結界は限りなく紺碧に近い透明へと変わり、やがて安治川河口と天保山の大観覧車を含む周囲の景色がそっくり見渡せるようになった。瓦礫と廃墟の積み重なった、元・科学の粋を集めた遊園地兼秘密基地が煙を上げて崩れてゆく。そこに仁王立ちする未知なる宇宙科学の結晶と、歩く宇宙兵器。
遠い空の彼方から時空を超えて邂逅した師弟が、再び拳を交えることになった。
自分たちの生存証明を、存在理由を、大切な人々を守るため。
それらを滅ぼさんと牙をむく、オーサカ一心会とO.C.P谷町スリーナインを破壊するため。
カマボコ板に加えて複数のカメラによる映像がモニターに表示され、隊員の皆さんが状況に応じたスイッチングをしている。
画面は上空からの映像で、まだ火がついている瓦礫を踏みしめたマノが天高く拳を突き上げているところを映し出している。
「行くぞ、クリス!!」
言うが早いか、みるみるうちにマノの全身が膨張し、表面張力の限界までぱつんぱつんに張りつめた筋肉が所々で脈打った。巨大かつ強烈なエネルギーが放射され、それを浴びたカマボコ板や各所のカメラからの映像が一瞬、乱れた。
動揺する隊員の皆さんを尻目に、やがてノイズと砂嵐、色彩の乱舞からモニターが持ち直した頃には……全身が深紅の被膜に覆われ、その内側で沸騰した血液を送る血管と表面張力の限界まで張りつめた筋肉が蠢き、黒く長かった髪の毛が銀色に変わって反り返り、ライオンの鬣を模したツノのように天に向かって突き出している。
真っ赤な巨人が夕陽を浴びた観覧車を背に仁王立ちしていた。
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