滅ぼされた村
「起きてください、翔真(しょうま)様。学校に遅刻しますよ」
「……んん、もうちょっと……」
遠くから目覚まし時計の音がジリジリと聞こえる――……。
だがそんな音、凄まじいほど強力な眠気には叶わない。
何せまだ4回目のアラームだ。
つまり今は6時50分。
余裕余裕。
あと3回は聞き逃せるね。
「もう!そんなこと言って、結局また寝過ごすんでしょう!?早く起きてくださいっ!!」
「んー、あとちょっとだから、寝させてよ……――ああっ!!」
バサッ!!
ミアは僕の布団を強引に取り払った。
纏う物が無くなり、服のみになってしまった僕に冷たい風はやってくる。
「――寒っ!」
まだ2月なんだよ!?
つまり、真冬なんだよ、真冬!!
布団無しじゃ寒すぎて死んじゃうよ!!
僕は必死でミアを睨みつける。
……が、ミアはそんな僕の鋭い目をまるで気にして無い様で。
「早く支度をしてください。今日のご飯は卵焼きですよ」
「……え、また卵焼き……」
そういえばさっきから妙に焦げ臭いにおいがすると思ったら、また昨日のあの不味い卵焼きか……。
「……何か?」
「いえっ!何でもございません!」
僕は慌ててパジャマを脱ぎ、制服に着替えた。
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「卵焼きは美味しいですか?翔真様」
「あー……うん」
僕は見るからに不味そうな、真っ黒に焦げた卵焼きを口にした。案の定、ガリガリと音がなる。
どこをどうしたらこうなるのかよくわからない。
正直昨日と何も変化はないのだが、
「昨日よりは美味しいよ」
僕は精一杯笑顔を作ってその言葉を口にした。
「よかった……!」
ミアは明らかに嬉しそうな顔を浮かべる。
僕はこの顔が好きだ。
人間のように仮面を被らないこの笑顔が。
『……えーチェイス博士が今開発を進めているお手伝いロボットHS4についてですが、具体的にはどのような物になるのでしょうか? 』
『そうですね。今までの古型とは何全倍も変わった形になるでしょう。例えば料理! まるでプロのシェフが作ったような味になること間違いないですね。あのクソ不味い料理なんかとはサヨナラですよ、ハハ――……』
僕はそっとテレビを消した。
ミアは黙って下を向いている。
僕は、最後の卵焼きを口にした。
時代は3020年。
僕――樫村翔真はこのリゼシュー村で産まれた。
両親はいない。僕は捨てられた子供だったのだ。
現代では捨てられた子供は感情を持つお手伝いロボットによって育てられる。僕についたロボットがミアだったのだ。
ミアは本当によくコロコロと表情を変える。
それはまるで本当に人間のようだった。
花のように美しくて……。
「……もし、」
黙っていたミアが言葉を発した。
「……もし、お手伝いロボットHS4が開発されたら私はどうなってしまうのでしょうか」
「……」
今までも過去に何作品ものロボットが作られていた。
それこそ1000年前は感情さえ持たなかったのだ。
それが今、感情を持ちこうして家庭を支えている。
今までの古いロボット達は当然邪魔になり、廃棄処分にされていた。
「私も捨てられてしまうのでしょうか……」
「大丈夫!」
僕は立ち上がり、ミアの髪を撫でた。
「僕がミアを守るよ。約束する。だって君はもう人間だから」
こんなにサラサラで、花のようないい匂いがして。
こんなに人間より豊かな感情を持っていて。
捨てられていいはずがないじゃないか。
「……何よりミアは、僕の大切な家族だから」
―――もう、独りにはなりたくない。
両親が僕を捨てた時のことを僕は覚えている。
そんな僕を拾ってくれたあの時のミアの優しい笑顔を僕は覚えている。
「僕達はずっと一緒だから」
思わず涙が零れそうになって。
そんな僕を支えるようにミアは抱きしめて僕の髪を撫でた。
「……ありがとうございます。翔真様。」
「……ねえ、翔真様」
ミアの声が耳元に囁かれる。
その声はとても不気味で、少し怖くて
僕は思わずミアの身体を離した。
その瞬間、ポタポタと赤い何かが僕の腕に数滴落ちる。
「ミア……っ!?」
yumaru
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