63.

 一陣の風が二人の間を吹き抜けた。
 粉塵と黒煙が夕焼けの空に混じって溶けてゆくなか、T2に向かってマノが突っ込んでゆく。
「デヤーッ!!」
 飛び上がって両足を揃えたキックがT2の胸板から左肩の辺りに向かって伸びてゆくが、クリスはこれを難なくかわした。
「マノ!! まだその癖が抜けておらんようだな!」
「クソッ、素早いな!」
 ならば、とマノは足元からタックルを仕掛け、T2の胴部に組み付いた。だがロボットの重量は彼の膂力を上回り、反対にがら空きの背中に向かって強烈なハンマーパンチが振り下ろされた。マノの分厚い皮膜と筋肉を宇宙合金の拳が、アームが、重く鈍い音を立てて叩く。
 苦悶のうめき声を噛み殺しながら降り注ぐ拳の雨に耐えるマノが、やがて胴体から胸のあたりまでで体勢を整え、自分の胸とT2の胸部をしっかりとくっ付けるようにして両腕をクラッチした。
「ダァーッ!」
 気合一発、マノの体が一瞬沈み込んだあと、全身のバネと足元から膝、股関節、腰、そして背中から肩と伝わる回転の力で超重量級合体ロボットを投げ飛ばしてみせた。
 さらに凄まじい音を立てて瓦礫の地面に横たわったT2に飛び掛かり、馬乗りになって頭部や胸部めがけてお返しとばかりにパンチを降らせる。
 さしもの宇宙合金もマノの剛拳を喰らい続ければジョイントが軋み、板金は凹む。深紅の大拳頭(だいけんとう)が各所にめり込み、傷跡を付けてゆく。
「やるな……。だが、そうはいかんぞ!」
 コクピットのクリスが操作レバーについているボタンを押下すると、T2が全身から電撃を放った。まともに感電したマノは吹っ飛ばされ、筋肉が麻痺して動きが取れない。
 そこへクリス大佐の叫びが轟く。
「T2、分離だ!」
 一度バラバラの遊園地が一体の巨大ロボットになったと思ったら、今度はそのロボットが頭、胸と両腕、胴体、そして脚部の4つに分離してそれぞれがうなりを上げて飛び立った。
「なっ!」
「ハハハハハ、合体するだけがロボでは無いぞ! 喰らえぇぃ!!」
 頭、胸、胴、脚それぞれが円盤状に変形し、それぞれの角度で出現したバルカン砲やレーザーキャノンがマノを目掛けて一斉に火を噴いた。
「どうだあ、マノ!!」
「わあーっ!」
 四方八方、縦横無尽に飛び交いながら襲い来る銃撃に防戦一方となるマノ。首を支点にして下半身を持ち上げ、バネのように跳ね起きるとそのままの勢いで素早くバック転を繰り返して後退するも、そのマノの手や足の着地点を正確に狙いすましたレーザー光線が遊園地の舗装路や芝生を焼き、二人の間には広く間合いが取られた。
「戻るぞ! T2!!」
 再びロボットの姿に戻ったT2を駆り、クリス大佐がマノに向かってゆく。
「デヤーッ!!」
 気合一発、マノも鬨を挙げてクリスの操るロボットに向かってゆく。お互いの左肩から派手に正面衝突をした巨大なシルエットが衝撃を殺すように膝のバネで踏ん張りながら睨み合うのは、四角形のイベント広場だった。T2が足元からジェット噴射で空中に浮きあがりながら後退するのと、マノが後ずさるのと、二人が再び相手に向かって走り出すのは殆ど同時だった。だがジェット噴射で浮かんでいる分T2の方が重量で勝り、マノを押し倒した。マノは大きくぶっ倒れたがすぐに俯せた。T2がその背中を垂直に跨ぎ、振り返って、立ち上がったマノに体当たりを仕掛ける。しかし三度目の体当たりはマノがT2をカエルのように飛び越し、振り向きざまに空中で身体をひねってそのまま急降下式の両足キックを見舞うことでタックルの仕返しとした。
 それでもT2は倒れず、素早く立ち上がるマノを抑えつけるように組み付く。マノはT2の両手首を掴み、飛び上がりざまにT2の土手っ腹を蹴り込んで宙返りをした。
「ぐぬっ!」
 T2を形成する回転木馬や遊具の何処かが火花を散らして砕け散った。その隙を過たず、マノが素早く左の下段、右中段、さらに左中段と蹴りを見舞い、仕上げに飛び上がって左の飛び後ろ回し蹴りを叩き込んだ。

「あっ、あれは!」
「なんなのサンガネ」
「あのキック……確かマノが昔、学校で習ったって」

「マノ! 見事なもんだな。私の教えた通りじゃないか!」
「忘れようったって忘れるもんか!」
 計器やディスプレイが揺れ、うっすらと白煙の漂うコックピットでクリスが呵々と笑う。マノも切り返す。
「コイツは如何(どぉ)だ、喰らえ! In Your Face!!」
 地面に叩きつけたマノの拳から地響きと共に炎が走り、T2の足元で炸裂した。
 機体を大きく揺さぶられたT2の動きが止まった、その刹那。
 Burn It To The Ground!!
 さらにマノが追い打ちをかける。叫び声と共に今度はその場でジャンプして強く着地すると同時に両手で地面を叩く。低い地鳴りと共に真っ赤に燃えるエネルギーの奔流が辺り一面に広がり、T2ごと包み込んで大爆発を起こす。
 しかし黒煙をついて飛び出して来たT2の姿には流石のマノも面喰ってしまった。T2の宇宙合金に衝撃波や爆炎の効果は今一つのようだ。

「どぉしたあ、それで終わりかあ!?」
 喜色満面のクリス大佐が操縦桿をへし折らんばかりに握り締め
「コチラから行くぞぉ!」
 とドスの効いた声で叫ぶ。
 Stargazer!!
「わぁーっ!」
 クリス大佐の叫びは夕暮れた空から、まるで雨のように流星群を降らせた。夕陽を浴びて濃橙色に光る隕石で全身を強かに撃たれたマノが堪らず
Cover Take Cover!!
とシールドを張ると、さらにクリス大佐は
 Eyes of the World!!
 の音声入力コマンドでロボットの両目からシールド破壊光線を放ち、マノの光波障壁を砕いた。
 Stone Cold!!
 さらにクリス大佐はT2の背中でアーチを描くゴンドラから真っ白な冷凍ガスを噴き出させ、マノの全身に浴びせていった。みるみるうちにピシピシカチカチと空気と水の凍り付く音を立て、マノが氷漬けにされてゆく。やがて黄金に輝く相貌までも分厚い白い檻の中に閉ざされ、身動きも取れなくなった。
「ハーッハハハハ! さあコイツを抜けられるかな!?」
 操縦席のクリス大佐は実に嬉しそうだ。まるでマノとの対決を心から楽しみ、味わっているようだ。

 Death Alley Driver!!

 T2が素早く分離し、四つの機体が同時に巨大な氷柱と化したマノに向かって飛んで行く。そしてそれぞれの機体から伸びたアームがマノのツノ、両肩、腰、両足を掴んで逆さまに吊り上げたまま上空高くへと舞い上がる。
「不味い、あのまま落っことす気だ!」
「サンガネ、なんとかしなさいよ!」
「そんなこと言われても……!」
「キャーーッ!」
 もはや司令室に居たボクたちも、隊員たちも、みんなモニターではなく窓に張り付いて外を見ていた。そして総司令部のビルより遥か上空で一瞬、静止した四機が猛スピードで地面に向かって急降下を始めた。氷漬けにされたマノもろとも激突する寸前にアームが拘束を解き、マノは文字通り脳天から地面へ真っ逆さまに突き刺さった。氷が砕け、首から背中にかけてグニャリと曲がったマノがそのまま大の字になった。
「マノーーッ!」
「マノや、負けるでないぞえ!!」
「マノさん……」
 サメちゃんはマトを抱きかかえるように窓辺に立ち、彼にその戦いを見届けさせようとしていた。

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