#不思議系小説 第131回「Blue Sun Shine」

 冷たく、あからさまな悪意のこもった空っ風が猛然と吹き付ける港の片隅で。
 ひずんだギターの響きが脳裏を駆け巡る。思い出すだけ思い出して遊ぼう、汚れるだけ汚れた、この体ひとつで。
 青く、淡い空が高く冷たくのしかかる。空虚、とは、空っぽで虚しいと書く。
 空のように底抜けで、虚しくなるほど晴れ渡る。空虚。

 心の片隅にポツンと残ったレコードプレーヤーに針を置く。お気に入りのナンバーが空っぽの風景に流れ出し、四方八方に跳ね返っては目玉に耳に突き刺さる。
 心の起伏にスコンとハマるタンゴ、ベイビー、でもデモDEMO、南蛮渡来の薬が効かない、あんた気に食わない、暗いね暗いね。

 太陽が溶けて濁った意識の中を低空飛行するように微睡んでいた。サイコロ頭と十字架を背負った仮装行列とカーニバル。背広の男が独りゆく。人いきれのなか泳ぐように、溺れるように、足を引きずり、汗を拭って、走る、走る。
 やがてカーニバルは日暮れの、赤い海へと辿り着く。男も女も老いも若きも、犬もトカゲも小鳥もみんな、踊りながら笑いながら赤い海へ沈んでゆく。砂浜と波打ち際と海の底が境界線を失くして、あの世とこの世が一つになった。
 やがて夕闇の海の底から踊る踊る、銀のあぶく。ぎらつく夕陽が乱反射する、儚く脆い銀のあぶく。カーニバルの終わりを告げる、鈍く輝く銀のあぶく。カーニバルの終着点で、歌い踊り消えてゆく銀のあぶく。こぼれた涙も、まぶしい笑顔も、歌と踊りと消えてゆく銀のあぶく。

 電氣菩薩の待つ峠。巨大なエスカレーターで登ってく真っ赤な峠で君を待ってる。
 海坊主と人魚姫とポセイドンと半魚人が笑って溺れて夢の海。堆く積まれた海洋コンテナを吊り上げるガントリークレーンが夕陽を浴びて影になる。
 聳え立つ影の群れは空と海に捧げる墓碑銘とレクイエム。ワイヤーロープで吊るしたコンテナに詰め込まれた魂と、青春の遺骨。

 楽しかったね、ささやかだった日々。いやだ、いやだ、行かないで。私を置いて行かないで。十字架になったって、雲になって風に乗って何処へ消えてしまっても。
 私ずっと待ってる、海の見える丘の上で港の汽笛を子守歌にして、恋人たちのベンチに火をつけて、形見に拾った貝殻だけを持って、記憶の中ではいつまでも微笑んでいて。
 私だけの私だけの私だけのあなたが雲になって風に乗って何処へ消えてしまっても。

 あなたのことが好きだし、あなたの言葉は私に届いているし、受け止めるたびに素敵だと思うけれど。あなたが届いて欲しいと思っている、何処かの誰かさんには、届いていないように、あなたは感じてしまうし、恐らくそれは当たっている。
 寂しいだろうな、悲しいだろうな。悔しいだろうか、泣いてるだろうか。
 その隙間を、あなたの心を、うずめて寄り添うことが出来るのは、何処かの誰かだから。
 寂しいんだよな、悲しいんだよな。悔しくは無いけど、泣きたくなるんだ。

 青い青い陽射しの中で、対岸の海岸の湾岸の道路が浮かぶ。空に向かって伸びてくような、雲を渡って架けられたような。青い青い陽射しを浴びて、大きな大きな橋を渡る、血の色のマセラッティひとりきり。アクセルを踏み込んで、追いすがる風も言葉も涙も振り払って、流されるまま走ってゆく。
 
 海と、遠くに浮かぶ街並みが溶けてゆくような陽射しのなかで。
 ベージュのコートを翻して、黒く長い髪の毛を、潮風に踊らせて、微笑む君のかじかむ手のひらを掴む。走る。岸壁のフェンスがビュンビュン飛んでく。
 コンテナ、輸入車、外航船。回遊魚みたいに悠然と行き交うトラック、トレーラー、輸出車、足車(ダミー)。埠頭は陸の水族館。いつまでも泳ぎ続けられると思ってた。
 君と一緒に。青い青い陽射しの中を。
 ずっと一緒に。青い陽射しの中で。

 思い出すだけ思い出して遊ぼう、汚れるだけ汚れた、この体ひとつで。
 青く、淡い空が高く冷たくのしかかる。空虚、とは、空っぽで虚しいと書く。
 空のように底抜けで、虚しくなるほど晴れ渡る。空虚。

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