#不思議系小説 第163回「粘膜EL.DORADO 8.」

「無論だ」
「オイオイ、お前なんぼ知事やっちゅうてそんな」
「構わぬ。どうせ私は飾り物。この街の知事ではあるが、しかし実態は別……この租界以外は、全て奴等が支配している……よって存分に、ぶっ壊してくれたまえ」
「ムチャクチャ言いよるな……!」
「なるほど。オーサカの平和だの安全だの言わないところが気に入った」
「マノ!」
「心配するなサンガネ。ここじゃなるべく暴れないようにするさ。でも、この外なら遠慮はいらないんだな」
「左様だ。知事に二言は無い」
「よし来た。僕は僕の好きな人たちのために、ひと暴れさせてもらうとするよ」
「人、たち……?」
「お前さんも入っとるんや、サンガネ」
「マノ……」
「決まったな。詳しい話はアマリージョ、君から伝えてくれないか。私も大したことは出来ないが、精いっぱいの支援をさせてもらおう。何か必要なものがあれば、いつでも連絡をくれ。これを渡しておこう」

 ブラウンは背広の内ポケットから黒い端末を取り出して、テーブルの上に置いた。ふた昔前の携帯電話なる通信機器より少し小さくて丸っこいそれは
「政府要人の極秘通信(ホットライン)専用端末……!」
「サンガネ君と言ったな、この手の扱いは君の方が詳しいようだ。これを君に預ける。マノ君の助けになってやってくれ……頼んだぞ」
「せやけど、こんな重要端末(モン)……どないしたんや」
「この街にとっての政府要人、重要人物というのは……とっくに私ではなくなっているのでな。そいつは今、どこの誰とも繋がってはおらんのよ。友達の居ない中学生の携帯電話と、まあ同じようなものだ。だから、君たちに預けた」
「僕たちは、あんたの友達かい?」
「私は、そう思っているが?」
 背中越しに右手をヒョイと挙げて挨拶に代え、ブラウンはマノとサンガネの居室のドアを出て、階段をトントントトンと降りて行った。何処となく上機嫌そうな足音を残して。

「全く、彼奴は昔っから変わらんわい」
「なあ博士、さっきから聞いてると僕たちよりあんたの方がよっぽど府知事と友達みたいじゃないか。どういうわけなんだ?」
 ボクとマノ、アマリージョ博士は店の奥にある博士の住居で夕飯のテーブルを囲みながら、さっきの会話について振り返っているところだった。

「さっきも言うとったが、ワシとブラウンは腐れ縁。もっと言えば戦友ってやっちゃな。このオーサカがこんななる前……まだ大阪だった頃に勃発した、あの戦争で一緒に戦ったんや。二人とも生まれも育ちも大阪。誰よりも大阪を愛し、大阪に芽生えて育った文化を、大阪に集まってきた文化と人々を、誰よりも愛しているのがブラウンや。戦争が終わったあと、ワシは工作好き工具好きが高じて店を始めたが、ブラウンは復興してゆく大阪の中心に躍り出て、今度は政治の世界で戦い続けた。けど、全国で湧き上がった独立の機運を受けるなかで、大阪も変わっていった……そして、奴等が勃興して来た」
「オーサカ……一心会、か」
「うむ。民衆を煽り、自分たちの思い通りにならん奴等はみんな敵や、ふるさとオーサカの発展を邪魔する裏切り者やと言いよってな。彼奴らのやり方は悪辣で強引、もぉー押しつけがましいこと極まりなかった。が、何よりも奴等が生み出した最大の癌。それは既得権益や。要するに、奴等はオーサカに芽生えて生き残った文化を食いつぶし焼き払ったあとで、そこに新しい食い扶持を作りよったんや」
「利益を独占するためにパーソナルセンターと結託して古い文化や店を潰し、自分たちに都合のいい町と歴史を作ろうとしている。そのために、あぶくちゃんやみんなが狙われている、だったか」
「せや。けど、それだけやない。考えてみぃ、そんなことしたかて先は見えとるし、ワシらかて日陰者やけどもまとまってかかって来られたら奴等だってかなわんと思っとる。自分たちに逆らう奴がおる、っちゅうだけでもイメージが損なわれるさかいな。そこで、日雇いや派遣労働者の給金や住民から徴収した税金のピンハネ、地上げ以外にも手広く商売を始めよった」

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