第52回「銀色の夏の終わりに」
銀色の夏の夕暮れ。潮騒だけが繰り返す砂浜。崩れかけた崖と崖を縫うように伸びる舗装もされない坂道。長く伸びた蔦の先で小さく咲いた赤い花を、血の混じった汗のような色をした西陽が射す。そこに吹く潮風、その時のにおい、濃くて湿…
ハイパーグラウンドに ようこそ
銀色の夏の夕暮れ。潮騒だけが繰り返す砂浜。崩れかけた崖と崖を縫うように伸びる舗装もされない坂道。長く伸びた蔦の先で小さく咲いた赤い花を、血の混じった汗のような色をした西陽が射す。そこに吹く潮風、その時のにおい、濃くて湿…
Compliance という巨大なネオンサインが、じりじりと真っ赤な光を放っている。ただそれだけの真っ白で広い広い部屋。何処からともなく歩いてきて、踊り始める赤いランドセルを背負った少女。クルクルパーマを楽しそうに弾ま…
ヤニ茶けた窓の向こうには埠頭の片隅で錆色に光るスクラップの山 降りしきる雨でずぶ濡れになった、その一つ一つが誰かの破れた夢のあとなのかもしれない。そんなことを、ただぼんやりと思い浮かべては点けっぱなしのテレビにかき消さ…
真っ昼間のテレビから無傷の連中が半笑いで呼び掛ける「一致団結」より空虚で軽薄なものが、果たしてこの世に在るんだろうか 威嚇するようにわざと押し殺した声を張り上げて、わざわざピックアップした世の中の不満を政府や総理大臣に…
潰れた魂には義足も付けられない、と僕の好きな映画でアル・パチーノ演ずる盲目の退役軍人が言っていた。手遅れになってからでは支えることすら出来なくなってしまう 乾いた心では花束も受け取れない。砂漠のように荒れ果てて潤いを失…
未練さえ、なかったらな。一人ぼっちの帰り道をとぼとぼを辿りながら小さな石ころをつま先で蹴飛ばした。乾いたアスファルトの上をカラカラと転がってドブ板の向こうへポチョンと落ちた名前もない石ころ 日々の充足と生きる希望と引き…
彼女は、もう僕を必要としていないんだ。なんとなく、そんな気がして仕方がない。誰かに聞いてほしいし、否定してほしいけど、彼女本人が否定してくれればくれるほど、僕には不要だと言われているように聞こえてしまう。厄介な性格だと…
愛知県大府市。運転席のデジタル時計は13:48を示している。トラックで迷い込んだ狭い路地、坂道の上に薄曇りの空がとろりと白く広がっている 抜け道を探して入ったはいいが、ひどく狭くてトラックの横幅すれすれにブロック塀や施…
明るい将来を疑う事もせず、前向きなつもりで生きてきた。だけど振り返ってみればロクな事がない。青春や自分語りの為に思い出す記憶なんて、全部都合のいいように塗り替えただけ そんな連中が今日も何処かで、挫折した夢ばかり拾い集…
あたしは暗い水に侵されて沈んでいくいつも頭の中で笑うあなたが眩しくてあたしが暗い水に侵されて沈むときも屈託のない瞳で笑うあなたは眩しくて だけど違う未来を信じて必要とされないと知りながらも手を伸ばしてもっと他の未来を望ん…
最近のコメント