ニューシネマ・パラダイスシティ 第6回 「幸福の鐘の鳴る場所へ」

秋。

真夜中。

割と大きな県道沿いのコンビニ。

緑と白と青のコンビニ。

こんな時間でもトラックや営業車がひっきりなしに行き交っている、田舎のコンビニ。世間じゃどうだか知らないが、ここは毎日だいたい同じ。

大型トラックがやってきて駐車場でエンジンをかけたまま眠る。営業車も眠る。同じ時間帯のサービスエリアと似たり寄ったりの情景が今日もそこに広がっている。
店に入れば、代り映えのしない音。

幸福の鐘か、不変と凡庸の断末魔か。

この暮らしに肩まで沈んで、ぬるい脂の中を泳がされているような気分だ。

どこも同じようなパネルとポップ、売り物と揚げ物。

すげーうまいっぺ、のイラスト看板と幟が物凄くヒトをバカにしているように見えて、目を背けたくなる。

鶏肉の揚げたのを擬人化したのも苦手だ。

どうにもこのノリについていけない。

この店自体に、店員さんにも会社にも罪はない。

勝手にこっちが受け止められないでいるだけだ。

むしろ同じ客であるにもかかわらず、この店のノリを、この店が

面白いでしょ?

と発信してくる面白さにそのまま素直に乗っかって面白いと思える奴が苦手で、いつもこの手のキャラやキャンペーンやキャッチフレーズを見るたびに、脳内にそうした緑と白と青のパーティーピープルどもが湧いてきて背骨と背中の間をぞわぞわ土足で走り回る。

その感触がひどく苦手で、嫌いだ。

学級委員の悪ふざけ、生徒会の内輪ネタを全校集会で見せられているようなもんだ。
レジ前にもトイレにも売り場の壁にもびっしり貼られたペイアプリには、よその失敗を茶化した宣伝文句。

さらにそれを写真に撮ってアップロードする客どもに攻めてる、煽ってると言わせる。

自分たちは何もしないで、ちょっとそれっぽいことを書いておくだけ。

ごくぬるいフレーズが勝手に沸騰して世の中に伝播していく。

人が手を触れられる程度の温度よりちょっとぬるい。

そのぐらいのこと。
そこまであらゆることを計算されたものを見て素直にはしゃぐこと、写真を撮ってアップロードすることさえも計算づくの広告だとして、それを面白がることは幸福なのか。

世の中にあふれた大本営発表いや大本営広告を素直に面白がれることだけがこの世の中で幸福でいられる唯一の方法なのかもしれないとしたら、その権化がここなのかもしれない。

自分の欲しいものに限っていつもどこの店に行っても売ってないことが多い、店舗が多いわりに品ぞろえにムラがあるこの店こそが。

それでも周囲の連中は満足げに買い物をしているし、不満はあれどそれすらも自己顕示欲のステッカーや短くてうるさい音楽で飾り付けてどこぞに投稿すればそれでおしまいだ。

議席獲得もままならない万年野党と泡沫政党に真っ当な政治スローガンを説かせておいて自分たちは好き放題やっている政権与党のようなもので、広大なネットの海に石ころを一つ投げ込まれたところで痛くも痒くもない。

お問い合わせ窓口の電話口が経営者の耳に繋がることもない。

何をやっても好評だ、評判だ、と言い張ればいい。

もしもその海で溺れるようなことがあれば店が一つ水死体になるだけのこと。そうしたバカ発見器にかかったら不幸だったと思うしかない。

買う方も売る方も使い捨てだし、キャンペーンに賛同しないものにハナから用などないのだ。

それは何もこの店に限った話じゃない。

どこの店でも集団でも、田舎の土着企業だろうとボンクラ高校の生徒会だろうと同じことだ。

自分たちが如何に多数派であるか。

自分たちに如何に忖度をさせるか。

選択の自由があるようで忖度の不自由しかない。

どこの集団も同じだ。
秋。

真夜中。

割と大きな県道沿いのコンビニ。

緑と白と青のコンビニ。

こんな時間でもトラックや営業車がひっきりなしに行き交っている、田舎のコンビニ。世間じゃどうだか知らないが、ここは毎日だいたい同じ。

大型トラックがやってきて駐車場でエンジンをかけたまま眠る。営業車も眠る。同じ時間帯のサービスエリアと似たり寄ったりの情景が今日もそこに広がっている。

幸福の鐘がなる店の自動ドアが今日も開く
訪れる客の方が先にいつか死に絶える国で
幸福の鐘がなる店の自動ドアが今日も開く

 

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