ニューシネマ・パラダイスシティ 第2回 「晴レ男(2)」

 私は、そんな消極的な連中の皺寄せまで食っていたが最後まで何のフォローもメリットもなかった。

 そのポジションに新しく入ってきた人員も四十代半ばだ。

 初めはわからなくても当然だし出来なくたって別にいい。

 仕事は覚えてからが仕事であってそれまでは教育段階だからだ。覚えの早い遅いや、その覚え方まで千差万別。そういうものだと言ってきた。

 容器の取り回しから客の場所、伝票の書き方、そして容器の防水。一通りのことは丁寧に教えてきたつもりだ。

 だがこの男にはそもそも仕事を覚えようということそのものが抜け落ちていた。教えてもその時は返事をするが、二日目には元の木阿弥。

 メモを取らせても書いてない。

 伝票のコピーを作っても持ってこない。

 作業を終えても手を洗わずに運転をする、食事もだ。

 汗をかいても着替えない、

 汗拭きタオルを取り替えない、

 その汗を拭いたタオルや汚れた作業着を私の替えのタオルの上に無造作に置く。

 その都度注意したが直さない。言えばその時だけ言われた通りにするだけだ。つまりこの男は出来ないのではない、やらないのだ。これではどうしようもない。

 そんなことを二ヶ月も繰り返した挙げ句、遂に徒労感でいっぱいになった私は全てを投げ出すことにした。

 もうどうでもいい、どうせ苦労するなら向こうの連中だ。

 構うもんか。

 むしろ仕事出来ないまま置き土産にしてしまえ。そう思って残り数日の作業をこなすことにした。幸い繁忙期と夏が終わり、仕事量も天候も落ち着きはじめていた。いつも通り愚直に作業をし、一日が終わる。

 車内で特に会話もない。何を話したところで明日には忘れているのだ。

 

 必要なことだけを伝えて、あとはぼんやり走り行く窓の外を見ていた。
 よく晴れた青い空だ。毎日まいにち憂鬱な心持ちとは裏腹に空だけは晴れ続けていた。
 そうだ。
 この男と作業するようになってからというもの、一度も雨が降っていない。

 天気予報が雨だろうと降水確率100%だろうと台風が接近しようと、ついぞ雨だけは降らなかった。
 そうか。
 この男は晴れ男だったんだ……むしろそこは大いに助かっていたんだ。

 

 そして最終日。

 特に何ということもなくいつも通りに作業を終えた。

 ありがとうございました、と男は言った。

 どうも、

 とだけ答えて私は職場を後にした。

 お疲れ様でした、お先に失礼します。

 おかしな言葉だ。

 こっちはやるだけの仕事をして帰るのだから当然の話。失礼されてるのはこっちの方だ。
 歓送迎会をやるけど、という会社からの申し出は丁重に断った。

 一緒に酒を飲んだり食事をしたり、吸わないタバコの煙を浴びたり、会社のカネで飲み食いしてるタダ飯にイチイチネチネチ文句つけるヤツがいたり。

 それが平気なぐらいならそもそも会社なんか辞めてない。

 
 やっと肩の荷が降りて、二度と敷居を跨がずに済む場所と顔を見ないで済む奴から去ることが出来た。

 どこでも同じだよ、と言うならば、ここじゃない方がいい。

 
 その夜は少しだけ贅沢な食事をして、アイスクリームまで食べた。

 風呂に入って夜更かしをして、早起きする必要もなくなったことにも喜びつつ眠りについた。

 もう夜が更けることにも、朝が来ることにも憂鬱にならずに済む。

 なんていい夜だ。

 

 翌朝。

 ぐっすりと眠って遅くに目が覚めた。

 時計を見ると十時少し前。

 幾らなんでもよく寝たなあ、と思って窓の外を見たら小雨がパラついていた。そうか、それで明るくもないんで寝てられたのか。

 テレビを点けたら騒がしくニュース速報が流れていた。

 緊迫した表情の女性アナウンサーが、今朝早くに十四輪の全輪駆動車の荷台が爆発し国道が寸断され近隣の家屋が数件半壊、死傷者数名の大惨事が起きたと早口でまくしたてた。

 続けざまに、駆動車の運転手が行方不明だと伝えていた。

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