ボクたちの街や文化を守るため、命を懸けて戦っているマノ。そのマノを助けようと、単身いま敵陣に向かったミロクちゃん。ボクは、ボクは一体どうすれば……!
マノは砕けた石畳に背中を刺されながら、巨大兵器・巽参轟の下敷きになろうとしているのを必死で抗っていた。人間は避難させても、付近の住宅や広場が気になって思うように戦えないのは変わらないようだ。が、巽参轟はお構いなしに暴れ回る。
全身から火を噴くバルカン砲で当たるを幸いぶち抜いて破壊する。目から発射されるレーザー光線が石畳を切り裂き店や家の密集した街並みを薙ぎ払う。燃え上がる炎が、逆巻く黒煙が、まるでこの世の終わりが来たかのように風に乗って狂う。
「ちょっとサンガネ! あのカマボコ板で攻撃とか出来ないの!?」
「あぶくちゃん」
「このままじゃ、マノもミロクちゃんも死んじゃうわよ!?」
「壊れたら部品ぐらいまた用意しちゃる、どないかせえ!」
「せや、このままやと兄ちゃんも姉ちゃんもわしらも、商店街ごとお陀仏や」
「死なばもろとも、やるだけやったらんかい!」
そうだ。何も出来ないなら出来ることを作ればいいんだ。
正義無き力は暴力、しかし力無き正義は無力。
僕には僕のチカラがある!
すっかりカマボコ板と呼ばれてしまったこの飛翔端末をフルパワーで全速前進させ、メガホンを持つ総統の鼻先をかすめさせた。二度、三度と飛び回り、奴の注意を引き付ける。
「ぬぅん! おのれぃ、小癪な!!」
総統は怒って腰のホルスターから古めかしい拳銃を引き抜いて発砲したが、元より小さな的であるうえ狙いが悪いのかかすりもしない。
「今だ!!」
「なにぃ!?」
次の瞬間、ミロクちゃんが総統の背中に体当たりをし、大事なメガホンが地面に吸い込まれるように落っこちた。ボクはそのメガホンにカマボコ板をブチ当てて、さらに手の届かないところへ跳ね飛ばす。
「こぉの、小娘ぃ!」
ミロクちゃんの白い素肌に、総統の白い手袋が炸裂した。
スパァン!
という乾いた音が、地面で圧し潰されそうなマノの耳に届いた。頬を抑え蹲るミロクちゃんと、それを取り囲む総統以下烏合の衆が、彼の黄金の相貌のなかで揺れる。
「マノ! そいつを操ってたのは、そのメガホンだ……!!」
指令が途切れて棒立ちになった巽参轟を足元から蹴り上げて、丸っこい巨体が丸っこいなりに反り返ったところを、短い脚めがけて蹴り払う。水面蹴り、という技だそうな。
転がるように引っ繰り返った巽参轟がコントロールを失い、起き上がれないでいる間にマノが飛び上がって圧し掛かり、腹の上から顔の付け根に手刀打ちを食らわせる。さらに突き出た顔や胴回りにパンチの雨、両手を握ってのスレッジハンマー、脳天に肘打ちと畳みかける。さらに開きっぱなしの口を両手で上下に引き裂こうと力を込めてゆく……。
ギ、ギ、ガ、ガ……!
巽参轟の口周りの部品や固定具、板金などが軋みながら歪んでゆく。
カマボコ板の熱源センサーによれば内部の温度は約600度と高温で、これは奴の動力が蒸気制御であることに由来する。要するに奴のハラワタにはボイラーが詰まっていて、中で燃やした燃料の熱で蒸気を産み出し、それを配管に行き渡らせて動かしているのだ。
それとは別に可燃性ガスのタンクもある。となると、こんな町中で爆発したらそれこそただでは済まない。この商店街ごと跡形もなく吹き飛んでしまう!
「マノ、そいつは蒸気とガスの詰まった動く爆弾だ!! 気を付けろ!」
距離を取って何か光線技を使おうとしたマノに、僕はカマボコ板のスピーカー越しに力いっぱい怒鳴った。
「何だと!? それじゃ危なっかしくてかなわんな」
慌てて光線技を取りやめたマノが一瞬、巽参轟から目を逸らした。そしてそこには、大勢に囲まれて蹲り、ゲバ棒の雨に打たれるミロクちゃんの、か細く崩れそうな背中があった。
「ミロクちゃん!!」
「マノ、あぶない!」
その隙を突いて、ボクが遠ざけたメガホンを拾い上げ総統に手渡した奴が居た。戦闘員の生き残りだ。そして水を得た魚のような目をした総統が、再びメガホンを構えて叫び出した。
「起きろぅ、巽参轟!!」
肚を決めてタイトル変更しました。
引き続きOSAKA EL.DORADOシリーズをよろしくお願いいたします。


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