皆様大好き、金銀ダイヤにロレックス!!
感謝の気持ちで年に一度の大サービス!
歳末大感謝セール実施中、名古屋清水口の──
冬。真夜中。古い石油ストーブと黄ばんだ畳。
窓を揺らす団地のビル風。背高(セイタカ)のっぽの高圧鉄塔が後生大事に抱えた赤いネオンがチカチカ光っている。
点けっぱなしのテレビのなかでは純白のマハラジャ風衣装に身を包んだ中年紳士が視聴者に向かって宝石・貴金属・高級時計の大売り出しを訴えている。
ドスの利いた声で。
押しの強そうな顔で。
恰幅の良い表情と自信に満ちて不敵な笑みを浮かべながら。
地方局の深夜となるとコマーシャルを買う企業も限られてくる。
宝石店、高級呉服店、自動車ディーラー、あとジェットも祭りもイベントも何でも貸してくれる会社。クラブ、キャバクラ、サウナ、パチンコ。
そして質屋、ブランド品の買い取り・安売りの店、大須の老舗、サラ金。
総白髪に太く白い眉、フレームの細い銀縁眼鏡、日に焼けて黒ずんだ分厚い面相。
派手好きで見栄っ張りで出たがりで、大袈裟で独創的で直情径行、良いものはどんどん取り入れるが、どんどん自分たちのものにしてしまう。ミーハーだから地元の伝統も好きだけど他所の権威はもっと好き。そんなザ・ナゴヤを端的に表したような、数分数十秒の映像が電波にのって流れて来るのを、無数に散った各地のテレビが受信して映し出す。
オルパンフェルフェルサミュニムングヘゼヘゼ。
オルパンフェルフェルサミュニムングヘゼヘゼ。
団地の群れを縫うように吹き抜ける潮気の混じった夜風が唱える。
世界の果てまで響けばいい。
あるいはもっと薄暗い、夜空と海に浮かぶ月。
無色透明の足跡が無味無臭の生活に刻まれて、いつの間にか自分で自分を裏付けている。望んだ答えに、願った通りに、目を逸らし顔を背け口をつぐみ鼻をつまみ、見たいものだけを見て。自分で自分を釘付けにしている。それが部屋で点けっぱなしのテレビから、手元で煌々と光る端末に変わっただけ。
目も耳も脳も指も、いつも思ったことなど一つも無い。浴びたものへの反射だけ。
それは感覚でも感想でもない。意味のない単語と同じ。
皆様ネコギギ!慇懃無礼にリラックス!
癇に障ると手を上げるタイプのステップファザー!
終末大観音ヴェール脱ぐとモザイク!名古屋清水口の美宝堂へどうぞ!
名古屋名古屋名古屋の清水口の清水清水名古屋の清水口名古屋の清水口名古屋口名古屋ナゴヤ名古屋の夜空はツインタワーリングインフェルノ。
イカルスが飛翔(と)ぶ。
こんなビルと窓と明かりだらけの空を。
誇らしげに、威風堂々と、白く巨大な翼を広げて。
濁った夜空の星を掴んで、地上の暗闇にばらまいた。
イカルスが飛翔(と)ぶ。
こんな汚れてくすんで色褪せた空を。
遥かなる虹を目指して、無限の暗闇を羽ばたいた。
言いたいことを言えと言うなら、もっとイヤなことを言うけどいいのか。
優しいところが好きだと言うなら、何もかもハラワタに仕舞いこむのさ。
どうせ自分のことも何処かで何か言っているし、隠しごとのひとつやふたつ。
自分が幾つも隠しているから、相手も噓つきなのだと素直に思い込む。
どうせ嘘つきばかりだ。どうせ分かり合えることなどない。どうせどうせ。
だから心を出来合いの誰かに仕立て上げ、そいつを綺麗に飾り付け、その顔のままで外に出て、誰かに会っては優しい人だと嘘を吐かせる。
皆様大好き、金銀ダイヤにロレックス!!
感謝の気持ちで年に一度の大サービス!
歳末大感謝セール実施中!!
点けっぱなしのテレビのなかでは純白のマハラジャ風衣装に身を包んだ中年紳士が視聴者に向かってナニゴトカ訴えている。
ドスの利いた声で。
押しの強そうな顔で。
恰幅の良い表情と自信に満ちて不敵な笑みを浮かべながら。
名古屋清水口の、オルパンフェルフェルサミュニムングヘゼヘゼ!!


最新記事 by ダイナマイト・キッド (全て見る)
- 58. - 2023年12月4日
- Sol Anochecer - 2023年11月30日
- 57. - 2023年11月27日
最近のコメント