#不思議系小説 第128回「Purple Sha Side」

 あっ。全部わかった。と、彼岸の砂浜で君が言う。
 紫の空、紫の海、紫の砂、紫の波、紫の視界、紫の世界、紫の奇祭、生けとし生きること。
 マルを付けてく、生けとし生きること。マルを三角、四角に塗ってく。はみ出したところが自分の生きる意味で、生きた証で、後悔の数。
 
 紫の鬼が金棒かついで逃げてゆく。紫の飴をバラまいて。
 紫の雨が降り注ぐ、紫の街、紫の墓地、紫の道、紫の私。
 
 風は紫、君の向こうに、広がる空は紫の雲。
 今を生きるには、過去を塗り潰し、走り続けて、未来を探して。
 紫の空、紫の海、紫の刻、紫の夢、紫の脳髄、紫の理解、紫の司祭、病める時も病み上がりも。まるで生きてる、巨大なかたつむり。丸い触角、死角に這ってく。踏み出したところが自分の生きる道で、生きた街で、後悔の数。

 出来過ぎた嘘を高い金払ってまで買い漁る。軽薄で単純な理由に値段を付けて、置物に張り付けたタテマエにする。見え透いた嘘を出来過ぎた噓に変える、世界で一番軽薄な魔法が出会いを別れに、秘密を自由に変える。心はお金で買える。心がお金で変わる。
 
 あっ。全部かわった。と、彼岸の砂浜で君が言う。
 紫の空を泳ぐ魚。紫の海に沈む男。紫の砂に飲まれた紫のロブスター。
 紫ガエルのひき肉をハンバーグにして、食いかけのまま路地裏に落としてきた。大事に大事に抱えて来たのに、手のひらから滑り落ちて(回り巡って)路地裏の、湿った地面に吸い込まれてった。さあいつものように召し上がれ、紫の炎、紫の煙、紫の時間、紫の唇。
 
 みんなで誰かを追い詰める。自分のせいだ、と指をさす。首を吊るまで追い詰める。誰も後始末をしない、ぶら下がって干上がって腐ったままの首吊り死体を、社会のせいだと見世物にする。立札と木戸銭箱だけ使い回し。
 紫の犬、紫の国、紫の川、人の皮を被った紫の餓鬼。
 紫の季節、紫の終わり、紫の未来、紫の大陸、紫の島国、紫の社会、紫の家族。
 みんなで誰かを押し込める。お前のためだ、と指を切る。手を離すまで待ってる。誰も悪意など持ってない。善意のセメントで満ち満ちたドラム缶から目を背け、自分の為に他人を沈めて、自分の為に嘆いてみせる。小銭入れの空き缶すらまた貸しのリース契約。
 
 あっ。全部出来てた。と、彼岸の砂浜で君が言う。
 紫の蛇を束ねた、紫の魔女の首を手に、高笑いする紫のアフロディーテ。
 紫タンゴの振り付けをマスターして、踊り出せば路地裏がステージだった。大事に大事に受け継いできたのに、誰にも気づかれないままに、見知らぬ人間が狂っていると、湿った地面に置き去りにされた。さあいつものように踊ってご覧、紫のひばり、紫の羽飾り、紫の際どい水着、紫の涙。

 みんなで誰かを探してる。誰かのせいだ、と血眼で。名乗り出るまで待ってる。誰も自意識など持ってない。善意の妄信で美化した醜悪な自画像に目隠しをして、他人のことを自分のように褒めたり、貶めたり。そして常にいちばん弱くて可哀想で、清く正しいのは油絵の中で微笑む自分だけ。額縁すら借り物で、延滞料金を払わせる相手と口実を早く探さなきゃ。早く、早く、自分より弱くて不快な存在を見つけなきゃ。早く、早く、早く、早く、自分より下劣で、下らなくて劣等感を拭うウエスみたいに扱っても自分で自分の正義が自分の背中を押してくれる。そんな輩を探して、吊るして、いちばん最初に石を投げなきゃ。

 ほろ苦い、だけど甘い旋律が帰って来る。
 肥満児の夜、異端児の夜、はぐれ者が、はぐれ者のまま生きられる夜。はぐれ者が、はぐれ者のまま、生の充足を得られるけれど、性の充足は得られない、社会からは呆れられ、天国からも見放された場所。楽園は電波の海の底にある。

 紫の電波、紫の深夜、紫の声、紫の孤独。
 

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ダイナマイト・キッドです 写真は友人のクマさんと相撲を取る私 プロレス、格闘技、漫画、映画、ラジオ、特撮が好き 深夜の馬鹿力にも投稿中。たまーに読んでもらえてます   本名の佐野和哉名義でのデビュー作 「タクシー運転手のヨシダさん」 を含む宝島社文庫『廃墟の怖い話』 発売中です 普段はアルファポリス          https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/376432056 小説家になろう                   https://mypage.syosetu.com/912998/ などに投稿中 プロレス団体「大衆プロレス松山座」座長、松山勘十郎さんの 松山一族物語 も連載中です そのほかエッセイや小説、作詞のお仕事もお待ちしております kazuya18@hotmail.co.jp までお気軽にお問い合わせ下さいませ

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