The Best Is Yet To Come
「あっ、苺郎!」
「いちろう?」
「さっきの白塗りの生き残りだよ。良い奴だったから逃がしてやったんだ……」
完全に戦意を喪失したどころか一生モンのトラウマを抱えたであろう苺郎は、その一生を此処で終えていた。あの逃げて行った女の子たちに追いつかれて、ここでなぶり殺しにされたのだろう。
全身を手あたり次第に殴る蹴るされ滅多刺しにされたうえ小便やツバ、吐瀉物に至るまでを浴びせられ、剥き出しの尻からひしゃげた鉄パイプがニョッキリと生え、男性器は根元から乱雑に切断されて口の中にねじ込まれていた。辺りに漂う残り香から、タダ切られただけではなく、男性器としての役目を終えてから切られたのだと思われる。獲物は鋭利な刃物などではなく、そこらへんに散らばっているガラス片か何かだろう。
「つくづく運の無い奴だ……」
「ああ……気の毒になあ。ついていく人間を間違えたんだ」
「この辺り、暫く白塗りじゃ歩けんな」
苦悶に満ちた白い顔にそっと手を向けて瞼を閉じてやり、俺たちもその場を後にした。
「誰か変なもの残してったぜ?」
「見つけたよミクニさあん!」
「それは誰かからのプレゼント」
まるでアウターヘイヴンでの戦闘騒ぎなど無かったかのように、ニッポンバシオタロードの往来は再び雑踏を身にまとい平然とした顔をして夕暮れ時を迎えていた。
「で、アイツら結局なんだったんだ」
「あの白い連中?」
「ああ。文化の敵とかナントカ……小難しいこと言ってたが、結局あいつらみんな誰にも相手されない奴の集まりで、それがこじれてあんな」
「うーーん、まあ、そうっちゃそうなんだけどねえ」
「なんか他にもあるのか?」
「実はコレ、ボクも聞いただけの話なんだけどね」
サンガネが言うには、こうだ。
近年、トライアンフオーサカを牛耳っている政治組織は「独立オーサカ逸心会」と言って、マッドナゴヤ同様に中央政権からの経済的独立と排他的支配による自治を目論んでいる。
ただマッドナゴヤほどの経済力は持ち合わせていない(化け物レベルの超巨大企業が複数存在するマッドナゴヤが異常なのだ)ため、金にモノを言わせて無理筋を通すことが出来ない。
そこで目を付けたのが、トライアンフオーサカの悪化する一方の治安だった。
荒廃した市街の各地で人々が自主的に寄り集まり、店を開き始めた。
そうなると決まって揉め事が発生し、それを専門に請け負う連中が跋扈し始める。店を始めて切り盛りするような才覚も、人から愛されるような性格も持ち合わせておらず、ただ暴力や威圧に愉悦を感じ、自他の力の差を比べて弱いものに食って掛かるような連中をつまみ出し、時には似た者同士をぶつけて互いに喰らい合わせて駆逐する。
悪人ではあるが、それなりに徳のある人物が生まれ、その悪徳を持つ者を神輿として担ぎ上げ組織をまとめる者が現れ、さらにその組織に組み込まれていく十把一絡げの奴等が集まって来る。
やがてその組織は自分たちの食い扶持を維持し、勢力を誇示するために縄張り争いを始める。面子、義理、仁義、そんなものを声高に叫びつつ血生臭い、泥沼の抗争を繰り広げて、さらに組織は淘汰され、併吞されてゆく。
そうしてのし上がって来た者の中には為政者へと成り上がる者、またはその為政者や政治結社に近づいて権力を得ようとする者も少なからず生まれてきた。荒事で揉まれた組織上がりの為政者や近侍たちは、気高い理想やぬくもりに満ちた社会を謳う政党と為政者に接近して初めは従順に働いた。
社会の暗部に跋扈し、治安を乱すクズ共を駆逐し、美しい独立自治地域トライアンフオーサカを作りましょう!
当然ながら、やがてその牙は、気高い理想やぬくもりに満ちた社会を謳う政党と為政者にも向けられる。彼らは既に荒事師たちによって骨抜きにされ、為す術もないままそっくり入れ替わられた。外見は気高い理想やぬくもりに満ちた社会を謳う優しい政党だが、実情はオーサカ各地で繰り広げられたヤクザもんのオールスター戦を生き延びた、仁義なきツワモノたちによって運営される血塗られた組織なのだ。


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