1人の涙
1体の破壊ロボットが姿を消した。
いや、姿を消したのではない。
正式には、地面に引きずり込まれたのだ。
何者かによって。
俺――東本祐希は見ていた、その光景を。
露木ももう一体のロボットもルーシーも、もちろんルビーナも皆が見ていた。
誰しもが予想をしていなかった展開を。
しかし俺は、ロボットが消えたことよりも気になることがあった。
樫村の表情だ。
樫村は動揺している。何を考えているのかは分からないが……、あいつが今恐怖と闘っているということだけは分かった。
「おいおいなんだよあれ……、調子乗ってんじゃねーぞっ!!」
もう1体の破壊ロボットは、例の破壊ロボットが消えた件で焦っているのか、急に怒りを爆発させた。
そしてその長い爪で、樫村の身体を切り裂こうとしたのだ。
「……はぁっ!!」
俺は、破壊ロボットの胴体を持ち前の武器で切り落とした。
手応えはまるで無かった。見た目は確かに重そうに見えたが、この程度は俺にとって雑魚に過ぎない。
正直に言うと、俺は今回の目的であるルビーナでさえ雑魚だと思っている。そもそもこいつは戦闘力はないはずだし。まあ人間を食べたことで少しは能力が上がっているかもしれないが、それでもほんの少ししか力は上がっていないはずだ。破壊ロボットを2体護衛として置いていたのが論より証拠。
なら何故さっさと破壊ロボットを殺さなかったのか。
今回の俺の目的が、樫村の能力を見ることだったからだ。
それと、樫村が隠している何かを知る為でもある。
恐らく樫村は嘘をついている。
そしてその嘘を、誰にも知られたくないと思っている。
それはきっと……、誰しもが予想をしていなかった今回の展開と、大きく関わっているはずだ。
「ふっふっふ……、なるほど。そういうことですね」
魔女は急に不気味な笑みを浮かべ出した。
「どういうことだ……?」
樫村はゆっくりと口を開く。
「貴方は選ばれたのですよ。この戦いの全てを計画したものに」
……選ばれただと? 樫村が?
……誰に?
……どういうことだ?
「まあいいでしょう。私には関係のないこと……それより、」
ルビーナはゆっくりとルーシーに近づいた。
「ルーシー」
「……お母さん……?――っ、っ!!!」
グニョっ!! と気持ちの悪い音がした。
ルビーナはなんと、自分の娘であるルーシーの右腕をそれはもう簡単に引きちぎってしまったのだ!
「ああああぁぁぁぁっ!!!!」
「ルーシーっ!!」
樫村と露木が急いでルーシーの傍に駆け寄る。
ルーシーの肩からは肉の塊や血がドロドロとこぼれていた。
しかしルビーナは、そんなこと気にも止めずにただグチャグチャとルーシーの腕を食べていた。
「ああ!!凄い!素晴らしい!みるみるうちに力が湧いてくるわ!!」
「お母さん……なんで――……」
ルーシーの瞳からは一滴の涙がこぼれ落ちる。
バタッ!!
気がついたらルーシーは、瞼を閉じて倒れていた――……。
『続く』
yumaru
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