現実
「……はぁっ!、…はぁっ! 」
シュンッ! シュンッ!
アジトの近くには修行するのにちょうどいい森がある。
俺はそこで次々と刀で木を斬り倒していた。
俺の持っている刀は武器屋で買った1級品で、それはもう切れ味が抜群なのだ。試しにこの間バラバラに転がっていたロボットの一部を斬ってみたが、本当にバサッとよく斬ることができた。
ただそれだけ質のいい刀なので、体力の消耗はとても激しい。3~4回振り回しただけで汗がこぼれ、それ以上振り回すと腕の筋肉に痛みが走る。
だから慣れなければいけない。こうして修行して自分を磨かなくては。
「あのさ。」
金髪の女性が話かけてきた。こいつの名前は露木七瀬(つゆきななせ)。ロボットキールの1員の1人だが、何となく絡みにくい相手なので俺はあまり好きではない。
「そんなに修行して何になるの? 」
「はぁ? 」
ほら、また理解不能なことを言い出した。
「自分を鍛えないと、あいつらには勝てないだろ」
「鍛えないとって……」
露木はクスッと笑う。
「あのね。そんなに真面目にやってる奴なんて、リーダーとあんた以外いないよ? 」
「…………」
薄々感ずいてはいた。
本気になっている人間がいない。
確かに皆それぞれの仕事を真面目にこなし、一日のメニューもこなしているが、なんというかそれだけだ。いつ破壊ロボットが攻めてくるか分からない状況なのに。
まあ俺はそんな奴らのことはどうでもいいので、気にも止めてはこなかったのだが。
「修行したって結局はあいつらに殺されるんだしさ、そんなに本気になる必要ないって」
「な……っ、」
なんなんだこいつは。
顔は笑っているが、その目には希望がないように見えた。
何かあったのか?にしても、
「お前、それじゃ矛盾してるぞ。俺達は兵士だ。兵士だから戦うんだ。なんでお前はこの組織に加わった? 」
そうだ、矛盾している。
兵士として強くなる必要がある。命懸けの戦いなんだ。本気になるのは当たり前だと俺は思っている。本気で戦う気が無いのなら組織に加わる必要なんてない。
「……、私は……――」
「おい、大変だ! 隣町に破壊ロボットが現れたってよ! 」
兵士の1人、沢村和哉(さわむらかずや)が大声を出しながら慌ててアジトへ走っていく。
俺と露木は突然の出来事に目を合わせた。
隣町……、
「レオルかっ! 」
レオル町――通称レオル。
俺が住んでいたここ、リゼシュー村は正直ドがつく程田舎でまだそこまで被害は大きくなかった。
しかし、レオルは『町』である為人が多く、都会である。その為レオルが襲われたら沢山の犠牲者が出るし食糧の調達も難しくなるのだ。俺が刀を買った武器屋もある。ここを襲われるわけにはいかない。
「行くぞっ! 」
初めての破壊ロボットとの戦い。
俺の腕はどこまで通用するのか。
俺の気持ちは高ぶっていた。
この前と同じ俺ではないんだ。
露木の声が聞こえた気がしたが、気にはしなかった。
俺は急いでアジトへ向かった。
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「な、なんだよ……これ……」
俺は今、足が動かなかった。
あの後俺はアジトに向かって、リーダーの命令で兵士全員でレオルに来た。
俺は確かにあの時気持ちが高ぶっていたんだ。
『殺してやる』って。『絶対勝つ』って。
なのに、なんだ。なんなんだこれは……、
そこにあったのは、恐怖だった。
破壊ロボットはいろんな形がある。人間の形をしている物、逆に世間一般で知られているまさにロボットその物の形をしている物。そいつらの目からいきなり光が現れ、それはたちまち町を燃やす。
リーダーはロボットが次々に放つビームを即座に避け、そしてロボットに近づき首を切り落とした。
青い液体が飛ぶ。それは数滴俺の頬にも飛び散った。
青い液体……。人間の泣き叫ぶ声、破壊ロボットの攻撃音、
青い液体と赤い液体が混ざり合っている。
ぐちゃぐちゃだ、めちゃくちゃだ。
この光景は前にも見たはずなのに、足が動かない。
俺は舐めていた……、あの程度の修行じゃ意味がなかったんだ。前にリゼシュー村が襲われた時のことで分かっていたつもりだったが、それはつもりでしか無かったんだ。
実際に戦いの場に来て分かったんだ、俺はここで死ぬ……。
「助けてっ! 」
振り向くと兵士の1人が破壊ロボットに追い込まれていた。
「オマエニオレタチノクルシミガワカルカ……! 」
その瞬間兵士の首が飛ぶ。
兵士の顔はこちらを見ながら涙を流していた。
俺には見えなかった。だから俺には救えなかった。
(違う!! )
ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい――……!! 、
破壊ロボットが向きを変えた。
俺を見ている。
殺される! 死ぬ!
動け、動け俺の足、
死にたくない! ここで死ぬわけには……、
「うわああああっ!! 」
破壊ロボットのビームに多少触れながらも俺は走って、とにかく走って破壊ロボットの目の前に来た。
(いける!!っ )
俺は空高く刀を振り上げ、ロボットの首元を狙った。
がしかし、そのあとカーンッ!と音が鳴り、俺の刀は折れて中を飛んだ。
「な、何で!! 何でだ……――うわぁっ!! 」
その瞬間俺はロボットのパンチを腹に食らった。
幸い掠った為軽傷ですんだが俺は地面に倒れる。
「はぁっはぁっ……、な、何で……」
「――あんた、意外とやるわね! 」
タタタタと後ろから音がして、振り返ると露木が俺の目の前に現れた。
「見てなさい! 私の力を! 」
露木が両手を空にかざす。
その瞬間綺麗なピンクの光が俺達を包み込んだ。
ロボットがビームを放つが、露木のこの……なんていうんだ? ピンクのガードみたいな物でそのビームは別の方向へと弾かれる。
「今よっ! 」
いつの間にかロボットの背後にいたリーダーが一瞬で首を斬り落とした……。
(何だこれ……俺は夢を見てるのか……? )
「はぁ、はぁ……っう、!! 」
掠ったとはいえどもビームを食らった俺の腹は急激に痛み出した。
痛い。何が軽傷だ、俺はただのお荷物じゃないか……!
(俺は甘く見すぎていたんだ、この世界を――……)
露木が慌てて駆け寄ったのが見えた気がしたが、俺の視界はそこで真っ暗になった――……。
『続く』
yumaru
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