ニューシネマ・パラダイスシティ 第7回「嫌われ者症候群の君へ」

raison d’être
不幸な自分語り
この報われなさを見てください聞いてください
こんなに頑張ってる自分で御座います
何を言っても自分がいちばん
不幸で不運でかなしくて
やりきれないほど辛くって
それでも健気に頑張って
女神でありたい私って
かなしいさだめの
Aphrodite
慰めてくれる人は選びたい

 いつまでも腐っていないと気が済まない人たちがいる。自分が他人よりも劣っていて、その自覚があることを喧伝しなくてはならない難儀な人たち。

 わかってます、大丈夫です、私はクズです。私はバカです。
 何を言われても構わない、どう取られても仕方がない。

 わかってます、大丈夫です、私はクズです。私はバカです。
 自分だけが劣っていて、他の誰かから心無いことを言われるに決まっている。自分のことなんて、みんなキライに決まっている。
 だから先に言うんです。
 わかってます、大丈夫です、私はクズです。私はバカです。
 ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。

 どうにもこうにも上手くいかないこと、理不尽で不条理で不義理をされて不甲斐なくて。全部自分が悪いんです、とカタがつく前から自らの愚かさを先に出す。
 非難すれば人でなし、無視をしたら冷血鬼。
 慰めてほしくも、励ましてほしくもないため息のような言葉で自らをデコレーション。
 日々の悲しみも、辛く厳しい人生も些細なことまで自分のせいだとエスカレーション。
 励まされる価値もないんです、慰めてもらえるほど不幸じゃないんです、だってだって私なんか私なんか。
 呪いは他人が仕掛けるだけとは限らない。自分の呪い、自分を蔑み、自分を貶めることで他者にも呪いがかかっている。
 呪いは自分にかかるものだとは限らない。自分ばかりが呪われて、自分だけがいつも惨めて、そうして周囲を道連れに悲惨を味わい夜が明ける。
 朝になれば新しい理不尽、不条理、不義理を探して喚きだす。
 どんなに些細なことでも自分への攻撃になり、軽蔑になり、呪詛になる。
 そして周囲も疲れさせ、呆れさせ、離れたところでそいつのせいになる。
 私がダメだからあの人は去っていった。
 私が悪いからあの人はいなくなった。
 私だけが愚かで、私だけが上手くいかない。

目を閉じて耳を塞ぎ指先だけが画面を滑って鳥が鳴く
何も聞かないし聞こえないし聞こえたところで理解しない
不幸も不運も束縛も、前戯のうちでしかない
そうでなければはた迷惑な自慰行為
相手をしてはいけないのだ、自慰行為のシーンで男の手が伸びてくると
お前だって腹が立つだろう
それと同じことが、服も脱がず、指一本触れさせてもらえないで
目の前で起こっているに過ぎないのだ
慰めてくれる人は選びたい
慰めるに値する人じゃなきゃ不要らない
私を慰めてくれる人は、私が選んで決めてるの
お前は黙ってしごいてろ

 いつだって報われない仕事や結ばれない恋愛や不和の真っただ中にある家族のドラマは私が主役なの。
 うつむいて涙をこぼして泣き言を垂れ流すけど、私はいつも頑張るの。

 だからあなたは黙ってて。
 そしてみんなは見守って。
 だけどあなたは黙ってて。

 結局みんなが見ている前で言わないと持たないようなことは、初めから抱える必要もないし、辛抱する必要もない。
 それなのに意識していようがいまいが人前で殊更に言う人は、自分で好きにやってることに対する責任と徒労感を誤魔化すためにツライツライと言うのだろう。
 そしてちょっとでも自分に当てはまると思ったら、空に向かって問いかけを投げるか、引用ありきで同情の保険を掛ける。
 誰も何も悪くない、言ってるこっちも、早合点するほうも。
 だけどそれだけ、誰もが生きてるだけで後ろめたさや、生きづらさ、息苦しさ、抱えきれない些細な苦悩を
 自分のことかな
 と思ったまんまで残してる。心の壁にしみついている。


 嫌われ者症候群とは、すぐにヒトから嫌われてしまう奴のことを言うのではなく、
 すぐヒトから嫌われてやしないか、と不安になってしまう人のことを言う。
 そしてそれは僕もそうだ。
 疑心暗鬼と被害妄想と現実逃避だけが上手くなって、結局モノゴトは前に進まずに年だけをとって老いだけを味わって、取り残されてまた繰り返す。


 
 だけど自分がいちばん不幸で不運で嫌われ者だと、思うことはもうやめたんだ。
 Aphroditeのお眼鏡に適うことも、独り善がりのraison d’êtreも
 もう、いらないんだ。そんなものはどこにもない。
 存在理由のなくなった世界から、つま先が消えてゆく。潮が満ちてゆくように、風が砂をさらうように体も心も消えてゆく。夢から覚めたら、また悲しい世界。


 やりきれなくて、辛すぎて、息苦しくて暮らしにくい、あの嫌な世界。
 だけどそこに昨日までの自分は居ない。目を開いて顔をあげて、深呼吸して歩き出すんだ。
 つま先が触れた世界は昨日までと同じ世間、
 でも今日から少しだけ違う世界。
 空も少しだけ青いし、海も少しだけ深い。
 街は少しだけ広いし、気温も少しだけ低い。
 季節の変わり目ですね、コバルトが目にしみますね。
 さあ、もう起き上がってもいいぞ。みんなが君を待ってる。
 戦う君を。微笑む君を。
 生きてる君を。
 

  

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