庭の片隅の日当たりのいい場所にモウセンゴケの鉢植え。
タライに水を張って、そこにちょこんと並べている。
きらきら輝くタライの水が、毛先の粘球に反射して輝く。
じっと覗き込むと粘球にうつる隣の粘球。
そのまた隣の粘球に反射してうつる世界の粘球。
無限に伸びてゆくモウセンゴケの粘球ひとつひとつに反射した世界がうつり、またそこのモウセンゴケの粘球に世界が反射してうつる。
伸びるモウセンゴケ
どこからともなく生えてきたキノコ
地を這うモウセンゴケ
背の高いキノコ
モウセンゴケ
キノコ
モウセンゴケ
キノコ
無理をし続けていると、いつの間にか無理をしなくては持たない体になってしまう。心が無理をしようとしてしまう。その不安が次の無理を呼んで、またさらに無理をする。
心に無理が根を張って、そのまま養分を奪い取って生い茂る無理の森。
陽射しも風も遮って、ただ暗く鬱蒼とした森の中に居もしない亡霊を飼い始めたらそれが君の憂鬱の正体だ。
憂鬱の 正体見たり ぼたにかる。
モウセンゴケの隣には、ハエトリソウの小さな鉢植え。陽射しと水をたっぷりあげて、あとは口を開けて獲物を待つ。無数の頭が生えてきて、巨大な口をカパっと開ける。トゲのついたフチが組み合って一度閉じたら滅多に開かない。
肥大化した頭の重さに耐えかねて垂れさがり、自らの茎を咥えて枯れたやつもいる。枯れたハエトリソウが茶色く、黒ずんで、崩れてく。
崩れたハエトリソウを餌にしてある日伸びたキノコ。
真っ黒になって倒れたハエトリソウ。
ハエトリソウに根を張るキノコ。
真っ黒のハエトリソウ
根を張るキノコ
ハエトリソウ
キノコ
ハエトリソウ
キノコ
ほら出口のない憂鬱が口を広げて待っている。
うっかり飛び込むその虫を溶かして、骨も皮も目玉も残らない。
鬱蒼とした森のそこかしこで、神様の顔をした憂鬱の草花。
君のこぼす涙を待ってる、弱音を吸い込みエビス顔。
威張ったもん勝ちの共依存。君が何をしたって気に食わないんだ。
君以外の人間なんか問題外。いちばん気に食わないのは君だけのものにならない自分だ。
だから自分の代わりに君を縛る。君を自分の思う通りにして、君の思う通りの自分になろうとする。
理想の自分のために先回りして君を矯正しているくせに、いざ狙い通りに君が悩んだとみるや早いか、さも自分だけが君を救うようなことを言う。
共依存 正体見たり ぼたにかる。
窓を開ければ平和な陽射し。青い空と隣近所の屋根どもがこっちを無視して陰口叩く。
日に焼けたポスターが死んだ目をして嘲笑う。
靴を噛んでスペイン語忘れて後ろ歩きで土手を北上ゴエモン風呂を目指して全身全霊、ぜんしーーーん!!
へそを踏んでスペイン語思い出してウノドストレスで飛び込んだ。
脳に直接しみこむ数式。脊髄まで浸した溶液。
発狂と幻覚と酔生夢死の正体見たり。
ぼたにかる。 蔓になる、蔦になる、手足に絡んで心を縛る。
縛られて無理をして削り取られた自分を見てまた削る。
足りない、足りない、自分が足りない。
足りない、足りない、あなたに足りない。
電波塔に絡みついた虹色の蔓。足元で口を開けて上機嫌のハエトリソウ。
モウセンゴケの粘球ひとつひとつに青空と屋根と電波塔。絡みつく蔓。伸びて伸びて花を咲かせて伸びて伸びて実が成って。ウツボカズラの袋が出来て、ウツボカズラに蓋がついて、ウツボカズラの口からこぼれた、白いおりもの。
ぼたにかる。
植物性だの草食系だの言う言葉があるだろう。
あれは肉食とか能動的な恋愛と性愛を求める連中の対義語みたいに扱われていて、消極的で、潔癖症で、自分からは何もしない奴のことを言っている。
じゃあそいつは草食系だから安心安全かと思いきやそうじゃない。
だってトリカブトの毒は100%植物性の成分だけど簡単にヒトが死ぬぜ?
植物だって生殖はする。繁殖のために工夫をしている。
自分から何もしないだけで、何を考えているかなんてわかったもんじゃない。
草食系なんて言葉も、そういう連中が都合よく種を撒き散らすための隠れ蓑みたいなものだ。
それが性に合ってて、自分からは傷つきに行かないが向こうからアプローチしてきてくれて、自分を傷つけて、可愛そうな悲恋の被害者にしてくれるのなら大歓迎っていう卑怯でいびつな連中の言い出したことだ。
もしくは、本当に自分にだけ都合のいい奴を作るためにいらない定義をひねり出した奴等のオモチャみたいな言葉だ。
植物性の依存症が、蔓になって雁字搦めの君が見上げた空は広い。
振り払えばすぐに千切れて枯れる。そうさせないための断末魔に
耳を貸す必要は無い。
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