単調な音
奇怪な島
不快な旅
奇妙な国
ピコピコの国へ
この世の中がゲームに見える。ラブゲームやマネーゲームといった遊びや策略を巡らせる様をゲームという言葉で例えたのではなく、この世の中を生きる自分から見た社会が、仕組みと冷たい手触りを持つ不愛想なゲームに見える
向こうから歩いて来る人も、喫茶店の後ろの席に座った人も、駅のコンコースを行き交う無数の人も、いま自分のすぐそばを走り抜けた血の色のマスタングを運転する人も、すべてが記号化された何かの象徴でありそこに生身のニンゲンが持つ気持ちも精神も魂も心も、もはや入る隙間も置いておく余地もない
耳から入る音は単調で不快な響きになって鼓膜に刺さって脳を焼く
目から入る画は小さな点で描かれた記号が重なり合って紡がれてく
歩き出すと見えない道が次々に生まれてゆくのに
どこを曲がってもその場で止まってもそれを確かめる術はない
足音は低く鈍い効果音で
風の音は高周波の不協和音
省略された絵柄のように行き交う人をとらえてる。誰も彼も自分の人生しか知らない。他人の何を見て、どう感じて、ソイツの何を知っている気で生きてゆくのか。こっちは誰の事も知りたくないのに、誰かが誰かに自分を押し付ける
私の人生は、こうです!
私の自意識は、こうです!
私の過去は、こうでした!
私の恋は罪は過ちは生きる意味と存在価値は、こうです!
発信してしまえる人生
発信するしか価値のない存在
パパとママが好きだった、手元で操作する人生。テレビにケーブル繋いで電源、入れたら映った色とりどりのLife
見晴らしのいい部屋の大きな窓が良く晴れた海と空を取り込んでソファもシーツも壁紙も青く青く海と空と繋げてる
マロニエの並木とレモンジャムを添えたスコーン
紅茶が冷めないうちに旅に出ないと
夢から覚めないうちに旅に出ないと
思い立ったが吉日の白いdaylight
旅立ってくのは確かに俺だが、見送る俺は誰だろう
タイムトンネル抜けたら昭和、七十’sも八十’sも超えていこう
あの頃は良かったと電子音でのたまう懐古主義のバブリークラウズ
百貨店は六階に映画館、無人のフロアはOuter Haven
百貨店の四階で大売り出し、時代遅れの春物outer
めんどうくさいんだよ
ものも言えないほど善意の眼差しが日々突き刺さる
何処も彼処も善人たちが手ぐすね引いて待っている
めんどうくさいんだよ
何もかも自分の事だと思いこんで
黙ってられずに物申す
どうしてそんなに他人が自分の事ばかり遠回しに話していると思えるんだろう。その神経の方がよほど不思議で邪魔くさい。生きづらくないんだろうか。せめて自分の事だと思うなら黙って引けばいいものを、
さあ殴ってくださいそうしたらボクチンはアタチは被害者です
と言わんばかりの顔で、白々しく近寄って流れ弾に当たるのを待っている。だから邪魔だし鬱陶しい。比べる必要のないものを、やってることが違うのを、自分の基準で俎上にあげてわざわざ貶めるのがファンなのか
自分だけのまな板で何を切っても勝手だが、切りくずをこっちに向けて飛ばすのはやめてくれ。その切りくずの飛ばし合いに巻き込むのもやめてくれ。お前の切りくずを見せつけて勝手に味方だと思いこんで他をくさすのはやめてくれ。一人で決めて黙って死ね
めんどうくさいんだよ
何も言えないくらい善意の暴力が銃口を向け合ってる
何処も彼処も善人たちの便所のように糞まみれ
めんどうくさいんだよ
議論にもならない程度のおつむで
黙ってられずに物申す
私の事ですか
僕の事じゃないですよね
これは? あれは? これとは限りませんが
あれとは言えないのでは
めんどうくさいんだよ
無意味な旅路を嘲るようにカウンターのアラビア数字だけが上昇してゆく。心まで失くしたのか、なんて大袈裟な言い草をする奴は初めから心なんて大したシロモノは持ち合わせていない。デジタルもアナログもぬくもりなんてない、あるのは利便性の追求だけ。そもそも選択肢が存在しなかったか、無数の選択肢で溢れかえっているかの違いでしかない
追いかけても追いかけても届かない人がいる
どんなに辛くても振り向かず
一心不乱に狂っている
あんな男のために
僕が声をかけても幾ら引き留めても此方を気に留めることは、もうないだろう
君に会いに行くお金もないし、救い出す甲斐性もない
無理やりに引きはがすことが、救いになる保証もない
放っておくしかないけど、せめて友達でいたい
出会ったのはデジタルでも、通ったのは心だった
なんて綺麗ごと。イケ好かない男が可愛い友達の心と人生を蹂躙しているのを、そして彼女がそれを受け入れて狂ってゆくのを、ただ見ていることしか出来ない自分がいちばん許せなくて
さざめく心を殺す為に、嫉妬も劣情も殺す為に、音も色も単一の地平へと旅立ちたかった
自分で決めて黙って消える、それだけのこと
消えてゆく自分を追いかけてほしいのに、それも叶わないと気が付いているのに
わずかな期待と明らかな下心が隠せずに
君に届けと祈りながら願いながら
彼女が消えると言えば自分は放っておけないのに
自分が消えても彼女はお構いなしなのに
最後のひとことを迷っているうちに
3、ニイ、いち
電源を落とせばそれで旅は終わりさ
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