僕の話はつまらなかったかい
通りすがりのコンビニ
ビニールハウス
バイパス
インターチェンジなんてない
いつも頭上を素通りしてく
この町はつまらないかい
僕の話はつまらなかったかい
他の誰でもない自分になりたくて、どこにでも行ける気がして、何にでもなれるつもりでいたのに、今日までこの街にずっといる。昨日もいた。明日も、たぶん来年の今頃も。
毎年同じようにいつまでも暑くて、今年も同じように急に冷え込んで冬が来た。遅い午後の日差しが力なく黄色くて、並木道の落ち葉を踏んでも踏んでも、もう自分はどこにもたどり着けず、何にもなれなかった自分として、この街に埋もれて吹き溜まって枯れてゆくんだな。
夢なら、あった。
お金や望みや希望のために、不安と不満と不足を押し殺して生きてきた。
風の燃える丘も、裏切りの慟哭も、心が震えるような出会いも別れもなく。
ここに残った意味も、ここで暮らす理由も、これといってなく。当たり前に過ごしているうちにいつの間にか置き去りになっていたのは過去の自分だけじゃなく。目に見えないけど見えてないだけでそこにがっちり存在する空虚な鎖で繋いだ今日いま現在に至る自分が明日の分まで繋がれている。
こんな世界全部青になってしまえばいいのに
目の前が
月も星も太陽も沈んだ
空を泳
ぐ
もう誰とも話さない
もう何も聞こえない
もう何も話さない
(さあ顔をあげてごらん)
ああ、青い青い青い青い
この青く何にもなくなった世界を
ひとりで歩
く
(さあ声をあげてごらん)
さよなら たすけて ありがとう
恵まれて生まれてきた人が、恵まれたまま努力を重ねて、恵まれずに努力した人を、無情の刃で切り捨ててゆく。
しかしその恵まれてきた人はこれからずっと一切の間違いを許されず、鉄壁の潔癖を求められ、恵まれて生まれたことすらなじられ謗りを受け続ける。大きな独り言が石礫になって右からも左からも飛んでくる。
自分が誰かよりも恵まれずに生きる弱者で、理不尽に虐げられる被害者でなくては気が済まない奴らが今日も物差し片手に血眼になっている。自分より楽をして自分より不幸だと言っている奴が何より許せなくて、物差しの食い込んだ手のひらから滲む血の色でさえも、アイツの方が鮮やかだと言って金切り声で叫んでる。
恵みあうことよりも、恵まれないまま生きることを選んだのは、果たしてどちらの方なのか。
地元愛、郷土愛、かなしみの哀
好きで残った奴等にも
嫌で出てった奴等にも
わかるはずのない痛み
じわじわ真綿で絞めるような
じりじり火傷をしたような
いつまでも治らない癖に治そうとすると疼きだす
腐れ古傷を胸に抱えた田舎者の哀
生活は安定しても精神が不安定。精神が不安定だから生活も不安定。不安と不満と不足の影を踏みしめて生きている。この何もない田舎町で。
盛り上げよう、元気にしよう、活性化しよう、ほっといてくれ。
好きで残ったわけでも、嫌で出ていったわけでもない人間がごまんといるのに、わずかな地元愛にあふれるもの好きのために道路は封鎖、渋滞、雑で自己チューな運転する奴のせいで近くを通るだけでも厭になる。しようと思って活性化してるのは、死にかけの人間に電気ショックを与えているようなものだ。
遊星からの物体Xじゃあるまいし、滅多な突然変異と予想外のことなど起こらない。どうせそれもわかっててやるんだ。出せる金とヒマな連中のアテがあるうちに、絞れるものは雑巾でもハンカチでも絞るつもりなんだろう。
お鍋に水がなみなみ入ってて、それが過熱し吹きこぼれたのがバブルだったとするなら、今はフライパンを洗った後乾かすためにコンロにかけているようなもの。わずかな水もじわじわ蒸発して、何もかもカラカラになってもまだ炙ってる。水もガスも台所の電気まで好き勝手に元栓を閉じれるようにしたうえで。
誰にも元気にされたくない
どこにも歩いていきたくない
ただ不自由のない程度の暮らしが
今日も明日も続けばいい
張り切って生きるのも
俯いて生きるのも
疲れるから
明日も明後日もこのドアを
静かに開けて出かけたい
静かに閉じて帰りたい
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