第17回「砂の星より愛をこめて」

まるでたった一人だけ
水のない惑星に流れ着いてしまったような気分だった
バラバラになった夢の欠片が
ひらひらと舞い散るここは記憶の最果て
忘れられた追憶が降り積もる夢の島

曇天のまま夜
暗闇を切り裂くように走る特急列車のシルエット
ヘッドライトが伸びる
まだ見ぬ街へ
遠くの街へ
どこかにある街へ

 初めて乗った特急列車は思いのほか空いていた。昼間ならさぞかし風光明媚な田園地帯を走っているのだろう。今は昼間の雲が居座ったままの、季節のわりに蒸し暑い夜。窓の外は時折どこかの家で明かりが点いているのと、赤い踏切、通過駅の白い蛍光灯が浮かぶだけ。

湿度の高い思い出を捨てに行く旅
いつまでも抱えたままの傷を
今日まで大事に取っておいたはずの
そのまま老いた自分のことを
許すことも認めることも出来ないままの
湿ったままの記憶を捨てに行く旅

 寒々しくて寂しい、国鉄時代の古い駅舎。コンクリートの塊にアレコレと必要最低限の設備を乗せただけのような田舎の駅。ぽつりと立つ街灯の白い光が形ばかりのロータリーに降りしきる雨を眩しく照らしている。
 
激しい雨音に耳を塞いでしまえば
あとは何もない
こんなに雨が降っているのに
心ばかりがどんどん乾いている

 僕だけを置いて走り去ってゆく特急列車を見送って、赤いランプを暫く追いかけていた。大きく右にカーブして見えなくなっても、ガタタンガタタンとレールの上を走る音だけが名残惜しそうに残っていた。
 名残惜しかったのは僕の方。本当はどこにも降りたくない、どこにも向かってほしくない。誰にも探してほしくない、誰かに見つけてほしくもない、孤独と孤独のすれ違う瞬間がずっと続いているような、そんな心を捨てる旅。

砕けた夢が、失くした思い出が
隠しておいたはずのあの日あの時が
降り積もる夢の島
血と汗と涙と秘密を散りばめた
ボロボロのプラネタリウム
作り物の夜空に瞬くZodiac
星と星と星を紡いで描き出した
いびつなGemini
可愛いTaurus

みんなみんな泣いている
土砂降りの雨が降る分厚く暗い雲の上で
誰にも見えないようにして
こぼした涙が今日の大雨

 駅にはLEDの掲示板。もう今日は電車が来ない。庇の下で呆然と雨に濡れた線路を見ていた。胸ポケットの中で行き先を失くした切符が自嘲気味に嗤ってる。いつだってお前は一人だったじゃないか、敷かれたレールを走ることもせず、終着駅を拒み続けて始発駅から出もしなかった。
 諦めが早いことと賢いことは同じに見えて全然違う。賢い奴は前を向いて戦えるが、諦めてたら逃げるしかない。諦めを正当化することばかりに知恵を使うから、後ろ向きのまま歩くことだけが上手くなって、どこにもたどり着けないで終わるんだ。

見上げた空は灰色の雨雲
遠くの街の灯りが雲まで届いて
少し赤かったり青かったりしている
あの街にはもう戻れない
あの家にはもう帰れない
行き先のない旅に出て
死に場所のない日々を
生きる場所さえ失くしたまま過ごすなんて

 いつだって消えてしまいたいほどの憂鬱と、邪魔くさいほど構われたい寂しさがそれぞれ別の路線を走ってて交わることがない。幾重にも折り重なった立体交差のそれぞれを死んだような顔をした寂寥感の青い列車と、ギラつく目玉を見開いた焦燥感の赤い列車が走ってく。すれ違うことはあっても乗り入れることはない。直通運転に決して踏み切らない意固地になった第三セクター。


 だけど、もうどこも思い浮かばなかったんだ。行き先なんて、どこにもなかった。どこにでも行けると思っていたのに、どこにも行きたくなくなっていた。寝転んで天井を見上げているだけでもしんどいぐらいだ。
 起き上がって歯を磨いて顔を洗って着替えて家を出て駅まで歩いて、無数の人の目を気にしながら、座れるかどうかだってわかったもんじゃないのに電車を待ってる。立ってても座ってても誰かに何かを見られたら、どんなことを言われるかわかったもんじゃない。
 言わないだけで思われていることは、その何十倍、何百倍も隠れている。それなのに、誰にも文句を言われないように誰かと同じ服を着て、似たような髪型をして、こうしておけば大丈夫と顔に書いて人生を決めてしまいに行くことが出来る人だけが正しくて有望で、そんな他人が怖くて怖くて仕方がないと言い出したら壊れた人だと思われる。
 怖くない方が絶対壊れていると思う。

外はずっと土砂降りの雨
無人の田舎駅でひとり
砂漠のような心に傘をさして
どこへ行こうか
海も川も雨も水もない
砂の惑星を彷徨うみたいに
どこへ行こうか

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