親友が家を引っ越した
すぐ近くではあるけど
引っ越した
変わらないようで
変わってる
目に見えるようで見えてない
気がつけば月日が流れてて
見知らぬ街が変わってく
生まれた街が変わってる
目に見えるだけで見えてない
目に見えるだけで見ていない
何もかも、何もかも
何も変えることなど出来ない。
ふと歩き始めた街並みを見て、見覚えのない建物の多さに気が付いた。ビルも、店も、家も、駐車場も。気が付けば増えたり減ったり変わったり。
何も残すことなど出来ない。
だから残そう、というムーブメントが起きる。変えよう、というモーメントが出来る。気持ちや心や感情などでは動かせない、物質という絶対的なエレメント。
虹色の海の向こうから
空っぽを積んだ船が来る
ぎらつく陽射しを乱反射した
穏やかな白昼夢が
百年でも千年でも覚めませんように
虹色の海の向こうから
空っぽで出来た船が来る
ぎらつく陽射しに包まれた
現実逃避と罪悪感が
百年でも千年でも覚めない気がして
人並みの人波に消えてゆきたい
陰干しするような人生に
どうか朝陽を浴びせないで
誰も変わらずになど生きられない。あの頃こう言ったことが、今は全然真逆に生きていることすらある。真逆に生きる方が簡単なのかもしれない。ずっと変えずに生きる方が、きっと困難なのかもしれない。
続いているお店、続いている映画、続いている道路、続いている線路。
歴史は常に先へ先へ進みながら過去という名の泥濘の海へと沈んでゆく。船を漕ぎ出してその水面を走ることは出来ても、潜ることは出来ない。自らもまた歴史に沈んでしまうまでは。だが一度沈んでしまったら、もう浮かび上がり何かを証すことも出来ない。
実家を少し建て替えた
築五十年を超えているほうの
古い家を建て替えた
変わらないようで
変わってる
目に見えるようで見えてない
気がつけば月日が流れてて
見知らぬ街が変わってく
生まれた街が変わってる
目に見えるだけで見えてない
目に見えるだけで見ていない
何もかも、何もかも
何かを新しく始めるようなアイデアも度胸もなく、かといって今すぐこの場から逃げ出して何もかも諦めるほどの理由もなく、明日を少しだけアップデートさせる気力もない。何もかも失くして半端に生きているときが、意外と真面目に生きているとき。
生活のための仕事が、仕事のための生活になる。
仕事は何も楽じゃないし、楽じゃない仕事をするのは、生活を楽にするためだ。仕事がきつくても頑張ってこれたのは、そのぶん生活が楽になってたからだ。だから今、ちっとも楽にならない生活のために楽じゃない仕事をしているのは、いったいなんなんだ?
仕事のための生活すらもままならなくなれば、仕事のために生きることになる。仕事しかしない生活に、娯楽や息抜きすら入り込む余地はない。この国の宗教は労働で神様は経済だ。政府は教会、政治家も官僚も司祭、じゃあここに横たわってる名もなき殉教者は誰なのか。
真っ白な部屋。窓もなく明るいばかりの部屋の真ん中にエアロバイク。どこにも行かない自転車にまたがって汗をかいている白いタンクトップに白いショーツの美女ひとり。長い黒髪を後ろで束ねて、うなじの後れ毛が汗を含んで、濡れた首筋に張り付いている。
面長でハッキリした顔だちをした彼女の浅く日焼けした肌に光る汗、滴る汗。クリっとした瞳に長いまつげ、赤らんだ頬、スっと通った鼻筋、口角の上がった厚い唇、ツンとしたおとがいを、音もなく流れ落ちて胸元に消える汗。
ハンドルを持ちキュっと締めたタンクトップの腋から黒々とした体毛が見え隠れして、真っ白な部屋に薔薇色の芳香を漂わせている。汗のしずくが蒸発して霧になって、真っ白な空気をレモン色に彩る香気。
エアロバイクのカウンターが指し示す彼女の心拍数、消費カロリー、汗の量、汗の匂い、汗の味、汗の質。サドルの中央が幅2センチほどの浅い溝になっていて縦にまっすぐ伸びている。そこに汗がたまる。白いショーツに染みた汗がさらに流れて、やがてろ過されて溝に貯まる。それを集めて味わうセンサー。
銀のボトルに入った冷たい水をひとくち含んで、ゆっくりと飲み込む。息が荒くなっている、水を飲むにもひと呼吸おいてぐっと飲み込むくらいに。唇から舌へ、上あごから喉元へ冷たい塊が滑り落ちてゆくのを感じて、彼女が上を向いて安堵の溜め息を漏らすその時に、少しだけショーツに漏れたのは汗とは違うレモン色。
近所のお店が軒並み辞めた
昔からある商店街の
顔馴染みのお店が一つもなくなった
変わらないようで
変わってる
目に見えるようで見えてない
気がつけば月日が流れてて
見知らぬ街が変わってく
生まれた街が変わってる
目に見えるだけで見えてない
目に見えるだけで見ていない
何もかも、何もかも
巨大な倉庫
真っ暗な倉庫
無人の倉庫
その硬く冷たい床の上を滑るように通り過ぎてゆく
銀色の多面体
四角いのもあれば、六角形のもある
車輪もなく台車に乗っているわけでもない
暗闇のなかでぼんやりと浮かびながら
床を滑ってゆく無数の多面体
ときおり激突して飛び散る火花で
銀色の表面が光る
その一瞬の輝きを
真っ暗闇が飲み込んで
巨大な倉庫が閉じ込めて
ぶつかり合う多面体は速度を増して
あちこちで火花
一瞬のスパークが連なって
一瞬の火花が混じりあって
飛び散った破片に火が点いて
暗闇を蝕んでゆく光と熱の鼓動
暗闇が死んでゆく光と熱の墓標
暗闇に映し出す光と熱のロードショー
暗闇で交わす約束また会いましょう
デビュー作「タクシー運転手のヨシダさん」を含む短編集
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